青猫 | amesekaiのブログ

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私が目を覚ました時、私の周囲には誰の姿も見えなかった。

そんなことは、今まで一度もなかったからとても驚いた。

私が目を開けた時には、必ず誰かが私の近くに立っていた。

それは私にとって絶対のルールだった。

何故なら、私が目を覚ます、ということは、私を目覚めさせた人がいる、ということと、私の中でセットの概念になっていたからだ。

私は一人では起きることができない。

誰かに起こされないと、私はいつまでも眠り続けることしかできない人間なのだ。

それだけでも驚いたのに、もう一つ、今までと違っていることがあった。

私の体を拘束していた様々な制約が、全てなくなっていたのだ。

私を操るための糸も消えていた。

博士が鍵を外してくれた首輪も、普段は演技のため身につけていたのだが、それもなくなっていた。

手枷も、足枷もない。

私は自由になった右手を慎重に動かして、視界の中に移動させた。

しばらくそのままの状態を維持してみる。

たまに自分の手のひらを閉じたり開いたりして動かしてみたが、警報がなる様子も、誰かが慌てて私の様子を見にくるということも、起こる気配が全く感じられなかった。

これではいつもと全く逆だ。

私が起きたのに、なぜか世界が眠り続けているような、そんな不思議な感じがした。

これは、明らかにおかしい。

さすがに私でも現在の状況が異常であることに気がついた。

私の体は眠る前と同じ姿勢のまま、ベットの上で横になっていた。その状態から上半身だけ起こして、私は部屋の中を観察してみた。

特におかしいところは見つからない。

昔、自分が保管されていた壁が目に入り、その場所で目を止める。

少しだけ自分の過去を思い出した。

私は生まれたばかりの頃、あの場所に吊るされていた。

博士がそれじゃかわいそうだからと言って、現在のように私がベットの上で眠ることができるように環境を整えてくれた。

博士はかなり頑張って交渉してくれたらしい。

嬉しかった。

いつもなら、私のそばに必ず博士がいた。

その博士が今日はいない。

私の思考が最初の疑問に戻る。

私がなぜ目覚めたのか、という疑問だ。

可能性としては事故、という原因が考えられる。

災害時や研究所での事故の場合、私には強制的にスイッチが入るようになってる、と博士が私に教えてくれた。

本当はこの情報も、私には教えてはいけないことだったらしい。

でも、博士は『内緒だよ』と笑いながら、私にこの情報をこっそりと教えてくれた。

事故が起きたのなら、現在の状況も理解できるのだが、周囲の状態にあまりにも変化がなさすぎた。

警報が鳴らない。

アナウンスも聞こえてこない。

事故があったとは、とても思えなかった。

もっとも原因は分からないが、私は一人で目を覚ましてしまった。

そのこと自体が『事故』と言えなくもない。

私の監視がなくなることはないから、この異常事態もすでに研究所の監視システムに把握されていることだろう。

ちょっと時間がかかっていることが気になるが、きっとここにも、すぐに誰かが駆け込んでくるはずだ。

私を助けるためではない。

私を人形に戻すためにだ。