「照子」
「なんですか?」
「そろそろフードの中に戻らない?」
「フードの中?どうしてですか?」
「だって、照子、太陽の光、苦手でしょ?」
「そんなことないです。私はまだこの場所に居たいです」
珍しく照子が駄々をこねた。
「ダメだよ照子。わがまま言っちゃ」
「でも、、、」
「家に帰ったら好きなだけそこにいていいからさ」
「本当ですか?」
「本当だよ」
「、、、分かりました。雫がそう言うなら、そうします」
僕は慎重な手つきで照子の体を自分の頭の上に乗せる。
その間、照子はずっと無言だった。
僕は照子の体をすっぽりと包む様にフードを深くかぶる。
頭の上がひんやりと冷たくなった。
「照子は、まるで雪みたいだね」
「雪?」
「うん、冷たくて、真っ白で、雪にそっくりだよ」
「、、雫は、、雪を見た事がありますか?」
「実際に見た事はないよ。映像と知識だけ」
「、、、そう、ですか」
「雪がどうかしたの?」
「いえ、、なんでもありません」
照子の声はどこか寂しそうだった。
「照子、少し疲れたでしょ?駅に着くまで仮眠とらない?」
「いえ、眠くありません。私は大丈夫です」
「でも、、」
僕がそこまで言葉を話した時、何故か急に電車が減速し始めた。
「雫、、この電車、、減速していませんか?」
「、、うん、減速してる」
やがて電車はそのまま線路の上で止まってしまう。
「何かあったんでしょうか?」
「分かんない。でも、こんな事初めてだよ」
僕は席を立ち、窓から周囲の状況を確認してみる。
電車はちょうど、中央区と東区の間にある橋の上で停車していた。
いつもはすんなりと通り過ぎてしまう巨大な区画の間を改めて観察してみると、それはまるで切り取った崖の様だった。
橋の真下は底の見えない真っ暗な闇が支配している。
落ちたらまず助からないだろう。
「雫、どうしましょう?」
照子が不安そうな声で僕に意見を求めた。
何かトラブルがあったのだろうとは思うけど、ここで復旧を待って夜になってしまったら、かなり危険だ。でも、今から歩いて東区に戻ったとしても、家に行く前に日は落ちてしまうだろう。
「ここは不用意に動かないで復旧を待つのが正解ですかね?」
「いや、ちょっと止まった場所が悪い。しばらく様子を見て、復旧しない様だったら、歩いて家まで戻る事にするよ」
どちらにしろ、夜になるのなら、なるべく条件のいい場所で夜を迎えたい。
幾ら何でも、この場所で夜を迎えるのはまずい。
「いいんですか?雫、歩くの辛くありませんか?」
「大丈夫。こう見えても体力には自信があるんだ」
その後、僕と照子は車内で大人しく様子を見たが、結局電車が復旧することはなかった。
「これ以上は待てない。出発しよう」
「はい」
僕は電車のドアを手動で開き、照子と一緒に線路の上に降りた。
「でも、何があったんでしょうね?すごく気になります」
「僕も。見当もつかないよ」
僕は照子とそんな事を話しながら東区方面に向かって歩き始めたが、電車が止まった原因は移動し始めてすぐに判明した。
橋の向こう側。
東区方面の線路の上に人影があったからだ。
その人影はゆっくりと僕らに向かって歩み寄って来た。