夜風レンチ 3 | amesekaiのブログ

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「やだな。なんだはないでしょ、姉さん。これでもちゃんと仕事してきたんですよ」

「うまくいったのか?」

空木が俺に聞いてくる。

「もちろんだよ。俺を誰だと思ってるんだい?空木」

「いや、そりゃレンチの腕は知っているけどさ」

そんな会話をしている間も周囲の人々からの注目を一身に集めているのは姉さんだった。言動や行動も派手だがなりより姉さんは美しい。どうしても人目を引いてしまう運命にあるのだ。

「まあ、立ち話もなんだしさ、ちょっと場所を変えようよ」

「そうだな。さわら行くぞ」

「行くってどこに?」

「とりあえずご飯にしようよ。すぐそこにレストランがあるからさ」

そう言って俺は暴力の世界を指差した。

「お、いいね。ちょうど腹減ってたんだよ。気が効くね、レンチ」

「そうでしょう、そうでしょう」

「会場内か、、。大丈夫なのか?」

夜雨はどこか不安そうだ。

「大丈夫、大丈夫。暴力の世界はイナズマのテリトリーなんだ。管理者だって直接手が出せない場所だ。外にいるよりも随分安全だよ」

俺の言葉を聞いて夜雨は納得したようだ。

「そうだな。ここはレンチの言う通りにしよう」

「よし、決まった。じゃあ行きましょか。姉さんの分は俺がおごりますよ」

そう言って姉さんの手を掴むと俺は会場内に歩いてく。

「そんなに引っ張るなよ。子供だな、レンチは」

「ほら、空木もぼーっとしてないで、早く行こうよ」

「え、ああ、すぐ行くよ」

考え事をしていたような夜雨に声をかけ、俺たち3人は会場の中に入っていった。レストランはすぐ近くにあった。この場所はオベリスクと一緒に会場に入って来た時にチェックしていた場所だ。

俺は店員に金貨を渡して、なるべく奥の方の人気のない席に案内してもらう。同時に周囲になるべく客を入れないようにも頼んでおいた。


姉さんはすぐに大量の料理を注文した。夜雨はコーヒーとパスタ。俺はサンドイッチを頼んだ。

「で、何が分かったんだ、レンチ」

「焦らない、焦らない。昔から空木はそうだよね。心配性なのはよくないよ。もっと楽しく生きないとさ、ね、姉さん」

「そうだね、確かに夜雨は頭で考えすぎな所があるよ」

「お前らが考えないで行動するからだろ」

夜雨は俺と姉さんを交互に見ながら笑顔でそう言った。

「空木、お前変わったね。なんか昔よりもいい感じじゃないか?何かあったのかい?」

「俺が、、。そうかな?自分じゃよく分かんないないよ」

そう言って空木はコーヒーを飲んだ。

「お前らはコンビを組んでどれくらいなんだい?」

姉さんが俺に質問した。

「付き合いは長いよね。でも、いつも一緒に行動していたわけじゃないし、お互い秘密も多いからね」

「俺はレンチには随分感謝してるよ。実際に助けられたしね。レンチと出会わなかったら、俺は一人でもっと無茶してたと思う」

「いいよ、別に。俺も空木のサポートがあったからこそ、ここまで成長できたんだしね。感謝してるのはお互い様ってことでいいんじゃないかな」

「そうだな」

確かに空木とは不思議な縁があったと思う。今俺が一緒に行動している夜凪マジルは空木の親友だし、姉さんを俺に紹介してくれたことも嬉しかった。

でも、やっぱり俺が空木を一番信用しているのは空木のハッカーとしての腕だった。恐らく空木と互角の腕を持っているのは雨森希だけだろう。

あの天才と勝負できるのは同じ天才の空木だけだ。

今はもう引退してしまったようだけど、是非とも『ハチ』には現役復帰してもらいたい。俺もまだ狙っているお宝が沢山あるのだ。ハチのサポートを受けられないのは、正直な所、結構痛い。

「レンチは泥棒やってんだろ?」

姉さんがにやけながら聞いてくる。

「大泥棒ですよ、姉さん。この街で俺より盗みの上手い奴なんていませんからね」

「泥棒はもう止めろよ、レンチ。お前管理者に一度捕まったんだろ。今度捕まったらタダじゃすまないぞ」

「あれは空木のサポートがなかったからだよ。俺としたことがコンビの仕事に慣れすぎて、一人の時にちょっと油断しちゃってさ」

「ならなおさらだ。いい機会だし引退しろよ」

「そうはいかないよ。俺はまだ欲しいものが沢山あるんだ。正攻法じゃ手に入らないものばかりさ。ドジ踏んでランクもEになっちゃったしね。手に入れるには盗み出すしかないのさ」

「そんなことはないよ。レンチは元々Aランクじゃないか」

「なんだい、そのAとかEとかってのは?」

「この街にはランクがあるんですよ、姉さん。つまんない制度でしょ?誰が考えたんですかね、こんなもの」

「そういうなよ。客観的に自分の居場所を理解できるのは悪いことじゃないさ」

「そりゃ、Sランクならそう言うよね。やだね、天才はこれだから」

「Sってのはすごいのかい?」

「すごいですよ。一番上です。この街には2人しかいない最高ランクですよ。その一人が空木なんですよ」

「ふーん、やるじゃないか、夜雨。褒めてやるよ」

姉さんはそう言って空木の頭を撫でる。空木は嫌そうな顔をしているが大人しく姉さんの好きなようにさせていた。姉さんに文句を言っても何も行動が変わらないことを理解しているのだろう。

人ってのはそう簡単には変われないもんだ。空木もどうやら今の空木が本物なんだろう。

昔よりは安心して見ていられる。それは隣にいるのが姉さんだから、という理由もあるのだろう。