「輝夜の話?えっとね、あいつはこの街で夜風っていうハッカーチームを兄の白月夜空と一緒に作って暴れてたんだ。すっごい優秀だった。今はその実力が管理者の目に止まって管理者に協力してる」
「管理者に協力?」
「うん、契約者ってやつだね。見返りをもらう代わりに管理者に協力する人間のことだよ」
そんな事までやらなくてはならないほど、街を復興させる事は困難だったのか、、。
ハト、、魚、、本当にありがとう。
「そこで魚に出会った、、そういう事ですかね?」
「どうかな?私は魔法使いに会ったのが先だと思うけどね」
「どうしてです?」
「夜風ってチームさ、輝夜の兄の夜空が契約者になった事でバラバラになっちゃたんだよね。当時は不思議だったけど、つまりさ、ハッキングより面白い遊びを見つけたって事なんじゃないかなって、今思ったわけよ」
「魔法の事ですよね」
「うん。そんで魔法使いと一緒にいろいろやっているうちに、管理者とも繋がりができたんじゃないかな?」
「魔法を覚えるだけなら契約者にならなくてもよいのではないですか?」
「輝夜、というよりは兄の夜空だけど、契約時に管理者に望んだ条件、なんだと思う?」
希はいたずらっ子の顔をした。
「なんなんです?何を望んだんですか?」
「迷宮探索の自由」
「迷宮、とはなんですか?」
「街の地下の事。主に地下鉄を指す言葉だけどさ、地下には、使用されていない謎空間や謎施設が何故かたくさんあるんだよね。それを探し出して利用したり、いろんな悪さをするための基地にしたり、まあいろいろ楽しい場所なんだよ」
「その迷宮がどうかしたんですか?」
「そこはね、街でも塔と同じくらい管理の厳しい場所なんだ。私たちが遊べるのは周辺だけ。中心部には近寄れないようになってる」
「そこに輝夜と輝夜のお兄さんは行きたかったって事ですか?」
「おそらくね。何か掴んだんじゃないかな?あの兄妹は胡散臭いからね」
「でも、仮に希の言う通りだったとしても、街の地下を自由に動き回ることなんで出来ないはずです」
『それは、『ナイトメア』が徘徊しているから、ですか?』
輝夜の声が突然聞こえてきた。
私と希はお互いの背中をくっつけるような体勢になって立ち止まると、周囲を注意深く警戒する。
「しつこいな、、いつもの事だけどさ」
追ってくるのは分かっていた。あのくらいで諦めるような人物でない事はあの短期間でも理解できる。
私は輝夜の声を聞いた時、心臓が飛び出るかと思うくらいに驚いた。
輝夜の存在にではない。
ナイトメアという言葉を輝夜の口から聞いたからだ。
輝夜はナイトメアの存在を知っている。
「輝夜、、あなた、ナイトメアの事を知っているんですか?」
私は姿の見えない輝夜に向かって話しかける。
『勿論です。そもそも私が魚から魔法を授かったのはナイトメアと戦う為なんですから』
輝夜の言葉と同時に私たちを囲むように不思議な光の壁が出現した。最初はまた輝夜の魔法かと考えたが、どうやら違うようだ。
光学模様のその壁には『警戒中』の文字が浮かび上がっている。
そして壁の内部の空間が歪み、その中から白月輝夜が現れた。
輝夜は真っ黒ローブのフードを脱ぐと、長く美しい髪を風の中で踊らせた。まるで月光浴でもしているかのように月の光を全身に浴びている。輝夜は気持ちよさそうにその中で笑っていた。
「先ほどは驚きました。まさか大地を撃ち抜くとは、さすがですね、神様」
「あのまま生き埋めにでもなれば良かったのに。しぶといな」
「あなたに攻撃をもらったおかげで、脱出に時間がかかってしまいました。見てください。ほら服もボロボロです」
どうやら希はあの一瞬で輝夜に打撃を入れ、崩れた地盤と共に輝夜を穴の中に撃ち落としたらしい。輝夜はわざとらしくローブの広げて希に破れ具合をアピールした。
「輝夜、、ナイトメアと戦う事が目的とは、どういう事ですか?」
「そのままの意味です。一番初めに言った通り、魔法は嵐から街を救うための力。そして嵐とはナイトメアそのものです」
「それが、魔法を授かる条件、、。魚はナイトメアと戦う戦士としてあなたたちに魔法を教えた、、」
「ナイトメアを殺す為には、どうしても魔法の力が必要ですからね」
「まさかナイトメアがそこまで力を取り戻しているとは思いませんでした。もうそこまではっきりとした形を持ち、街の脅威ととなっているんですね」
「ええ、魚も予想よりもだいぶ早いと話していました。でも、ナイトメアとの本当の戦いはこれから始まるんです」
輝夜は大きく両手を広げ、周囲の大気を震わせた。
「あなたがこの世界に蘇ったからです。そうですよね、神様」
輝夜の雰囲気が先ほどとは違う。どうやら今度は本気のようだ。
本気で私を殺すつもりでいるらしい。
精神の型が外れている。
魔法の代償なのだろうが、一種のトランス状態のようなものかも知れない。
「神様、あなたはナイトメアを放置するおつもりですか?あれの討伐は魚に全て任せるつもりなんですか?」
「そんなことはしません。私が魚に求めた力とは、魚の兵器としての力ではありません。魚を兵器としての運命から解放する力の事です」
「それは同じ事ですよ、神様。結局、あなたは街を救う為にはあらゆるものを犠牲にするつもりなんですね」
輝夜は両手を腕の前に持ってくると、ゆっくりと指にはめていた指輪を外した。
「この指輪には、魔力が詰まっています。先ほどから私が使用している魔法は全て此の指輪の魔力を利用したものです」
なるほど、そういうカラクリだったのか。
初めに聞いたら驚いていたかもしれないが今はそう驚く事もない。
ナイトメアと戦っているのなら、そのくらいの装備は必要になるだろう。
「魔力を保存できる指輪ですか、随分便利な道具をお持ちなんですね。それは、あなたが作ったおもちゃなんですか?」
「これは、魚に頂いたものなんです」
「魚に?」
「そうです」
輝夜の身に着けているローブには紫色の奇妙な模様や文字が描かれている箇所がいくつかある。あれは簡易魔法式だろう。
「神様、魔法には大きく分けて2種類の魔法があります」
「自分を境界として、境界の内側に作用する魔法と、外側に作用する魔法ですよね」