「なんであんたがあたしの名前知ってんだよ?照子から聞いたのか?」
さわらは俺のすぐ目の前までやってくると、その場にしゃがみこんで俺の顔を覗き込む。
「うーん、やっぱりへっぽこだな」
「な、なにがだよ」
「何がってあんたのことだよ。こんな奴のどこがいいんだろうね。あたしには理解できないよ」
さわらの体からにじみ出る雰囲気は尋常ではなかった。身体中から強烈な暴力の匂いを発している。その顔は恍惚な笑顔に溢れ、その体は常に躍動しているかのように、全身に汗をかいていた。
塔を破壊したのはこいつだ。
直感のようなものだが、間違いない。
こんなこと出来るやつは他にいないだろう。
夢の中であった時よりも異常だ。
本物の赤家さわらは、紛れもない怪物だった。
「どうしたんだい。もしかして、びびって声も出せないのかい?」
「、、俺に何の用だよ」
ふふ、とさわらは笑う。多分、俺の声が震えていたからだろう。
「なに笑ってんだよ」
「別に深い意味はないよ。それよりもあんたさ、もうちょっと大きな声でしゃべってくれないかな?周りがうるさくてさ、そんな声じゃ何も聞こえないよ」
さわらは顔を俺の顔に近づけてきた。
「、、塔を燃やしたのは、お前か?」
「そうだよ」
「どうしてそんなことしたんだよ」
「理由なんてないよ。まあ、あえて考えるなら『邪魔だった』からかな?」
管理者の塔は街の中枢だ。塔が崩れれば、街は壊滅してしまう。たくさんの人が死んでしまうかもしれないんだぞ。
「お前、自分がなにやってんのか分かってんのかよ?」
「なんであたしがあんたに説教させなきゃならないんだよ?あんたさ、自分の立場理解してる?あんまり調子こいてるとさ、あんたここで死ぬことになるよ」
さわらの声には本気の殺意がこもっていた。
それもとびっきり強烈なやつ。
そのおかげで俺は初めて、殺意というものを直に感じ取ることができた。
俺は照子と10年間、夢の中で一緒に暮らしてきた。だんだん大きくなっていく照子の存在に怯えたことも、恐怖したこともある。でも、照子は俺に殺意を向けたことは一度もなかった。
当たり前だ。照子は俺を救おうとしてくれていたんだから。
死の恐怖は知っていた。でも、人の殺意が実際にどういうものかを俺は知らなかった。
それを初めて感じることができた。
そしてこいつは、その殺意を照子に向けようとしているのだ。
「照子は、どうした?」
「あん?」
そしてさわらの胸ぐらを掴むと、さわらの耳元で大声で叫んだ。
「照子はどうしたって聞いてんだよ!!」
さわらは俺の額に自分の額をくっつけて、激しいメンチを切ってくる。
「知らねえよ!あたしが聞きたいくらいだよ!!」
「なら、どけよ。俺はお前に付き合ってる暇なんてないんだよ」
さわらは顔を遠ざけると、改めて俺の顔をまじまじと見つめる。
「あんた本当に状況が理解できてないみたいだね」
言い終わるのと同時に、さわらの拳が俺の顔面を打ち抜いた。
一瞬、何がなんだか、分からなくなった。
大量の鼻血が地面に溢れ、強烈な痛みが遅れて俺の全身を襲った。声を上げることすら出来なかった。