「随分物騒な話だよね、それ」
「100年前のお話です。あの頃は、この場所に照子が生きて存在していました。大地の上を駆け回っていましたよ。私はそんな照子をいつも心配していました。いつか良くないことが起きるんじゃないかって、不安で、不安でたまらなかったんです」
「的中しちゃった訳だ」
「はい。私は照子を守ることが出来ませんでした。私はいつも照子に守ってもらっていたんです。照子が死んで、そのことを私は痛感しました」
「なるほどね」
「照子はほんのすこし前にこの世界に蘇りました。棺を開けて、私の前に姿を現してくれたんです」
「あれ?蘇ったのは地震の時じゃなかったっけ?」
「、、その時に蘇ったのは『照子の肉体』だけでした。魂の入っていない器だけの存在。照子の肉体はまるで魂を求めるかのように辺りを歩き始めました。私はその光景をただ、呆然と見つめることしかできませんでした。100年たっても、私は何も変わりませんでした。私はいつも見ているだけの傍観者にすぎませんでした」
「そんなことないよ。だってあなた、泣いてたじゃない。あなたは神様の為に涙を流せるんでしょ。それってすごいことだと思うよ」
「ありがとう、希。あなたはとても優しい人ですね」
「そうかな?別に普通じゃない」
「私は管理者たちに神の復活を告げました。ただ、少し照子の様子がおかしいとも言いました。そして様子を見たいので暫く二人だけにしてほしいとお願いしたんです。街ではちょうど明かりが戻った頃だと思います。あれは私が妹のアスタルテと一緒に街の機能を復活させたんです」
「ああ、事故のことね。あれはそういうことだったんだ。でもそもそもなんで街の機能を遮断なんてしたの?」
「塔に侵入する者がいたからです」
「そんな理由なの?今更だからぶっちゃけるけどさ、そんなやつ一杯いるじゃん。私だってハッキングはやってるよ。この街で情報を得ようとしたら、情報屋に頼るか、自分で盗むかのどちらかしかないんだからさ」
「そちらの方こそ、考えが甘すぎます。あなたたちは私たちを過小評価しすぎています。そんなの全部お見通しです。わかった上で泳がせているんですよ。本当に重要な情報には一切触れられないようにちゃんとコントロールしているんです。私たち語り部がね」
「そうだったの?私、語り部ってただのアイドルだと思ってたよ」
「あれは妹のアスタルテが言い出したことなんです。神様が沈黙しているなら私たちが神様のかわりに街の皆さんに語りかけようって、言い出して。私まで巻き込まれて『アイドル』を演じることになってしまったんです。やりたくてやっている訳ではありません。私にとっては不可抗力です」
確かにアウターはアスタルテほど画面で見る機会は多くない。でもたまに目撃するアウターはとてもノリノリで歌って踊っていたような印象があるんだけどな。レアだって言って、語り部のコアなファンほど、アウターを評価していたりするんだけど、、。
「でもさ、それならそれこそ街の機能を落とすなんてことする必要ないんじゃないの?」
「、、その侵入者だけは、人物を特定することができなかったんです」
「どういうこと?」
「ですから、特定できなかったんですよ。人物も、侵入方法もです」
「なんだ。やっぱりたいしたことないじゃん」
「その侵入者だけです。希、あなたの痕跡だってちゃんと私たちは把握しているんですよ」
「つまり、私より腕がいいやつがこの街にいるってことでしょ。すごいや。普通にスカウトしたい」
「希より凄腕のハッカーなんてこの街にいませんよ」
「じゃあ、話が矛盾しちゃわない?」
「します。だから困っているんです」
「打つ手がないから、物理的に遮断したってこと?」
「、、そうです」
「意外と強引な手段に出るんだね」
「今日だけ特別なんです。普段ならこんな真似はしません」
嘘をついている訳じゃないんだろうけど、アウターの話は引っかかることころが多かった。それほどのハッカーならそもそもハッキング自体がバレないのではないだろうか?それとも意図的にバラしらのか?管理者への挑発が目的とか?
それともただの遊びなのかな?
「じゃあ、塔が爆発したのはなんなの?あれも何か目的があってやったことなの?」
「そんな訳ありません。あれは魔女がやったんです」
「魔女?」
「神殺しの魔女と呼ばれている魔法使いの女のことです。魔女は100年間塔に幽閉されていました。それがやぶられたんです」
「よくわかんないけど、魔女が脱走して今も暴れてるってことなの?」
「一言で説明するなら、そうです。ただ、魔女は今行方不明です。管理者が全力で魔女を追跡しています」
「もしかして私の監視がなくなったのも、それが理由なのかな?」
「気づいていたんですか。さすがですね」
「監視している人が優しかったんだよ。なんていうのかな、監視していますよって、あえて私に教えてくれた感じ?わざと存在をこちらに気づかせようとしてくれてたみたいだね。誰だか知らないけど、あれは監視者には向かないよ。友達になるんだったら最高だけどね」
「ふふ、彼女の名前はミレニアムって言うんですよ。とても優しい女性です。だからあなたの監視を敢えて彼女に任せたんですよ」
「ああ、アウターが黒幕だったんだね。色々あなたも大変だね。これ以外にも沢山悪いことしてそうだしね」
「そういう言い方は心外です。私は悪いことなんてしていませんよ。私はただ街を守りたかっただけです」
そう言ってアウターはこちらを向き、にっこりと笑った。
なんていうか、すごく嘘くさい笑顔なんだよな。このアウターって子。外見は子供だけどきっと中身は怪物なんだろうな。嫌だな、そういうの。こんなに小さな体で、100年も街を裏から操っていたのかな?きっと辛かったんだろうな。もっと自由に生きればいいのに。
そんなに簡単にはいかないのかな。
街は大きな灰色の壁で覆われている。あの壁は私たちだけじゃなく、管理者も、語り部も、壁の内側に存在する全てのものを閉じ込めているのかもしれないな。
いっその事、破壊しちゃおうか。
そうすれば、みんな自由に生きていけるんじゃないかな。
神様にあったら聞いてみたい。
『神様。あなたはなぜ、壁を作ったりしたんですか?どうして、世界を区切ったりしたんですか?世界は本当はとっても広いのに、なんであんなに小さくしてしまったんですか?』
『なんであなたは自由に生きることができないんですか?』
自由。自由か、、。
あれ、なんかわかんなくなってきたな。
自由って、そもそも一体なんだっけ?