脳卒中発病当初私は高次脳機能障害がありませんでしたが、破裂動脈瘤への血液再流入の際に初めて高次脳機能障害の症状が出ました。

最初に出た症状は左半側空間無視でしたが、逸早く私に症状を指摘し、注意喚起してくれたのは、急性期病院のセラピストたちでした。セラピストたちは、症状が出る都度「左!ブレーキ!」、「ほら!左見て!車椅子の車輪が壁を擦るよ!」と注意してくれましたが、発症当初私は、次々に起きる(起こす)トラブルに戸惑うとともに、「何か急に五月蝿くなったな…大した事ないよ。」「左は緑内障で視野が欠けて見えずらいから!」とイライラして、事の重大さを理解してませんでした。

発症後数日して、主治医に回診の際に「○○さん、先日の再出血で、左側が見ずらいとか、高次脳機能の障害が発症しました。」私は緑内障の事を話しましたが、主治医はゆっくり首を横に振りました。主治医は都心にある日本最高学府の付属病院でも脳神経外科医として経験を積んできた優秀な医師です。

私の探究心に火が付き、「高次脳機能障害」という、あまり聞かない用語を猛烈に調べました。

こうして「高次脳機能障害」について私の最初の気付きは形成されました。

病識獲得に至る気付きの深化は「知的気付き→体験的気付き→予測的気付き」とされます。私の知的気付きは前述の通りでしたが、体験的気付きは、私が何か仕出かすごとに注意してくれた、急性期病院のセラピストたち、回復期病院のスタッフによりもたらされました。人間、何回も注意されれば嫌になって、次は気を付けようとします。そして回復期病院STのリハビリでトレーニングを重ね、予測的気付きが形成されました。


高次脳機能障害で発症する障害、症状の種類として、失語、失認、失行、記憶障害、人格情動障害、注意障害、遂行機能障害、半側空間無視、視空間認知障害、構成障害、地誌的障害と多く、臨床研究が進んだ現在では、精神障害の大きな分野となっています。

高次脳機能障害は共通して出現する特徴があります。まず、認識されずらい事で、「見えない障害」と言われる理由として外見的に健常者と区別が困難な症状が多い、患者の病識未獲得、患者や家族等による障害隠蔽があげられる。他の特徴として、神経疲労亢進、主症状に加えた他症状併発です。それと、私の主観ですが、元々の症歴や性格等と症状の発現又は抑制には関係が見られます。


私は、回復期リハビリ病院で転院時検査の後で、担当STから高次脳機能障害主症状の説明を受けました。私の高次脳機能主症状は、全般性注意障害と、左半側空間無視(視界左側が見えているのに、意識出来ない)でした。

注意障害は、持続性注意障害、選択性注意障害、転換性注意障害、配分性注意障害と、4つに分類されますが、私は主に持続性注意障害(文字通り注意持続力低下)と配分性注意障害(複数対象への注意処理力低下)の傾向が強いとのことでした。


以降様々な場面で私は、高次脳機能障害で苦しんでいます。

まず直面したのが、着替えの困難です。片麻痺患者は片手で着替えをしますが、通常はボタン服のボタン止めに苦戦しますが、私は、元々右手指のみでボタン止めする事が時々あったため容易に出来ましたし、ズボンの着替えも上手でしたが、担当OTの着替え評価ではなかなか合格点をもらえませんでした。服の袖に手を通す際にタグ等にて左右確認しますが、そもそも服の左右を認識するのに時間がかかり(視空間認知)、途中で、平面的な服を袖通しして羽織るとどうなるか想像すると頭が混乱(構成障害)し、誰かに話しかけれると注意力散漫になり着替え中断(選択性注意障害)、挙げ句はイライラして早く着ようとして服を引っ張る(人格情動障害)といった問題点がありました。

また、車椅子の自走については、急性期病院では許可されてましたが、左半側無視がかなり酷く、回復期リハビリ病院に伝わったため、回復期リハビリ病院では自走が許可されず、時々スタッフの見守り自走をするだけで、人身事故はもちろん、物損事故(擦り)も起こしませんでしたが、よくスタッフに「○○さんは、車椅子こんなに上手いのに、何で自走が許可されないのかしら?」と言われて私は苦笑して「いやぁ…漕いでる時は問題無いで

すが、降りる時ねぇ…」と答え、実際降りる時に左足をフットレストに置いたまま立ち上がろうとして、スタッフが「本当だ!危ない!」と叫ぶ場面がたまにありました。

高次脳機能障害の悩みは症状発現に伴う支障に留まらず、障害を持つストレスを私に与えています。

今後私は障害者手帳申請を考えていて、現状では片麻痺の方は、上肢が身体障害3級、下肢が身体障害4級合わせて身体障害2級該当で今から主治医、ソーシャルワーカーに身体障害者手帳申請意志を伝えていますが、高次脳機能障害については、別途精神障害者保健福祉手帳申請を検討してたところ、担当STから「当病院で、高次脳機能障害で精神障害者保健福祉手帳申請は例が無く、難しいと思われる。」と言われ、障害者就労支援事業所へ転職する予定の担当OTには「転職のため、障害者就労支援について勉強してるが、注意障害や半側空間無視はポイントが低く、企業等の雇用意欲に繋がらない。」と言われました。

私は「身体障害だけで2級あり、メリットが少ないなら、何回も申請するのは大変だし、精神障害者保健福祉手帳申請は止めよう」と、思いました。しかし、手帳が無ければ、私が精神に障害を抱えてると証明出来ず、何の証しもなく「私は精神障害者です。」と自ら言い回るのは、それこそ「変な人」で、家族や周囲を困惑させるだけでしょう。そこに「言えない」ストレスがあり、自分の言葉には乱れが無く、論理的破綻も無く、異常行動も無いので精神障害を「気付かれない」ストレスもあります。

私の家族は、私の障害の理解に努め、寄り添った言葉をかけてくれますが、「○○さんは、よく『精神的な障害ある』と言うけど、そんな風には見えな~い。」という無神経な言葉を聞く度に悲しくなります。そこには、高次脳機能障害に対する医療関係者を含む世間的軽視(又は無知)があると感じます。


つい最近まで私は高次脳機能障害は、回復困難又は上肢の様に年単位の時間が必要と考えていましたが、このところ、症状は抑えられ、障害の劇的回復が認められてきました。

私が高次脳機能障害の劇的回復に最も役立ったと考えているのは、セラピストたちの、複数課題を私に処理させるアプローチです。単純な立位保持でなく、立位保持に、上腕動作、左半側への注意喚起を組み合わせたリハビリでは、筋力、体幹強化だけでなく、脳の活性化を実感したリハビリでした。

それと、高次脳機能障害の症状抑え込みには、深呼吸、ゆっくり冷静に思考すること、夜間の十分な睡眠が有効でした。健常者も実践する様な事ですが、脳を損傷した患者には余計大事なようです。