さて、MRI検査の当日、私はあることで悩んでいた。
それはつまり『別班』にするかどうかで迷っていたのだ。いや、もちろんテレビドラマ『VIVANT』の別班(自衛隊の秘密部隊)のことではなく、私がいま履いている下着がボタンのついたトランクスであって、それをボクサーパンツに履き替えるかどうかで悩んでいたので、私の場合のベッパンというのは、つまり、別のパンツということである。ただ、そのパンツも元気があれば早朝テロを起こして『テント』を張ることもあるのだから (/ω\)イヤンハズカシ 満更ドラマとの関係性においては無関係であるともいえないだろう。
ではなぜ悩む必要があるのかというと、当日は頭部の検査ではあるものの、……と思っているのは自分だけであって、全体を検査するかもしれないし、上半身だけかもわからないので、もしボタンのあるトランクスであれば映り込む可能性がある。こやつチ〇〇に、真珠じゃなくボタンを埋め込んでおる、などとbuttonだことを思われるかもしれない。規則としてネックレスや指輪などの金属製のものは外さなければならないし、刺青は除外されるし、当日は化粧さえせずにすっぴんで臨まなければならないのだから、いらぬ心配なのだろうけれど、決断を迫られていたのだった。まっ、ダメであればフルチンですませばよい……。
ということで実際は、ボクサーパンツで臨むことにした。確か二年前に買った、入院などで可及的速やかに必要になる『もしもの時のパンツ』として保存してある『モシパン』であり、若い女性の『勝負パンツ』とは似て非なるものであるが、それを引っ張り出し、開口一番、
「クリッピー! ブロ。 ちっちゃなってるやん!」
と、最近の自分の小太りは棚に上げ、人気ブロガーの調子で叫んだ。
一応、腿の部分を広げたり、ウエスト部分を広げたりと、伸ばす努力はしてみたのだが、しかし、一時的に伸ばしたところで、また、じわじわと締め付けてくるのは予想できたし、股上も浅いし、結果かわいい息子たちに苦しい思いをさせることになるのは確実で、それだったらゴムの少しばかり緩くなった、履いてりゃそのうち風通しもよくなり、じょじょにトランクスに近づいていくだろう、洗濯したままで干しっぱなしのボクサーパンツ、つまり『ジョジョの奇妙なボクサーパンツ』を履いていくことにしたのだった。
呼ばれて、検査室へ入ると、そこは畳半分くらいの広さで、壁際に椅子とカゴがおいてあり、床にはスリッパが一足あって、こちらでこれに着替えてください、上はTシャツ一枚ですか、それは脱いでもらって、終わったらこちらへ入ってくださいと言って係の人は、アコーディオンカーテンの向こう側へと消えていった。あれだけ悩んだのにパンツについては、いっさい言及がなかった。
その日は、アホみたいに暑い夏のことであり、薄着である私はさっそくTシャツを脱ぎズボンを脱ぎ靴を脱ぎ、そうしてスリッパを履き寝巻に素早く着替えると、カーテンの向こう側へ飛び込んだ。はや着替えで、スーパーマンかスパイダーマンにでもなってしまったのだろうか私は……「レッドゴブリンはどこだ!」
あ、そしたらこっちきてください。
はァ~~~い。
目は開けていてもいいですか?
はい。磁石ですので、開けていても閉じていても影響ありません。
それを聞いて、心底ほっとした。MRIは過去に一度受けたことがあり、その時は耳を完全にふさがれ、狭いトンネルの中で、地下鉄の騒音に匹敵する雑音を聞かされながら、30分間ずっと目をつぶっていたのだった。目が開けられるとなれば恐怖は半減する。いやそれ以上だ。
それで検査台の上に載ったのだが、もうちょっと上の方へと言われるままに、台上でごそごそともがくと、下に敷いてあるタオルもモジモジねじれて、一回台から降りると、ねじれタオル同様わたしの寝巻も淫に乱れて、いと恥ずかし。やっぱりパンツは履いててよかった。
気分が悪くなったり、不安になったりしたら押してください。
ということで手に握らされたのがナースコール。桃色でぷよぷよしてるチイカワはイチジク浣腸そのものだった。
その後、頭を固定されたのだが、今回はラッキーだったような気がした。というのも、み、み、み、耳が完全にふさがれなかったのだ。ゆるく、あそびがあった。例えば、両手のひらで耳を閉じると、なにかゴワゴワと聞こえるが、それはおそらく自分の体の中の音であって、血液やリンパなどの流れる音や筋肉やその他の細胞などが動く音なのだろうが、それらの音は閉塞感そのものであり、怖い、不安になる。前回はそれだった。
今回、目と耳の自由を与えられた私には、イチジク浣腸はいらなかった。
検査する人は別のオペレーションルームに入ってしまい、部屋の中は私一人である。台が動き出して、狭いトンネルの中へ入っていく。目を開けているから怖くはない。といっても、頭は動かせないのだから、ドームの天井しか見えないのだ。
ドーーーーーーーーーーーー
しばらくして大きな音が鳴った。実際、音はなったのだが『ド』と表記したのは、次の音が上へあがったからで、
レーーーーーーーーーーーー
確かに、最初の音を『ド』とすれば、次のはやっぱり『レ』であるようだった。
ミーーーーーーーーーーーー
これはもしかして音階で、音を耳に慣らしているのだろうか……。
しばらくして音量がドーンと上がって、
ファーーーーーーーーーーー
ソーーーーーーーーーーーー
ラーーーーーーーーーーーー
シーーーーーーーーーーーー
ドーーーーーーーーーーーー
まるで、映画『未知との遭遇』のようだった。
そうして……うん? 今度は和音か……。音を重ねてくる。
『ド』と『ミ』を、同時にならしてくる。
あーずっこい! わっちもまぜて、ということで私は『ソー』。
ドーーーーーーーーーーーー
ミーーーーーーーーーーーー 【三音同時に】
(ソーーーーーーーーーーーー)
私は、心の中で歌っている。見事なハーモニーだった。
それが終われば今度は、
タ、タ、タ、タ、タ、
テ、テ、テ、テ、テ、
ト、ト、ト、ト、ト
なんか短い音だったので、聞いているとアテレコしたくなってきて、
「ワレワレハ ウチュウジンダ ジンルイハ ワレワレガ ツクッタ」
などと音に合わせて調子こいてやっていたのだけれど、突然、難敵が襲ってきた。
そいつの名前は『レッドゴブリン』ではなく『えへん虫』。退治するには、「えへん!」という掛け声とともに喉から吐き出さなければならず、そうなると固定してある頭が大きく動き、検査結果に大きな影響を与える恐れがあった。検査に、あとどれくらいの時間を要するのかはわからない。まさか「えへん!」と大きくやって、挙句固定されていた頭が外れてドームの天井を突き破ったとかの病院アルアルのネタになる可能性は低いが、どうしたものかと思っていると、音は
トントントントントン べーべーべーべーべー
に代わっていて、この『トントントントントン べーべーべーべーべー』はワンセットになっていて、次の『トントントントントン べーべーベーベーベー』との間には、少しの時間のゆとりがあった。このとき思ったのは、音が鳴ってないときは撮影していないのだろう、ということは動いても影響はないだろうということであり、タイミングを計り、ほんの小さな「えへん!」をして、完全には駆除できなかったが、えへん虫を少しイガらくない場所へと移動させることには成功し、検査は無事に終わった。
結果は前回に書いた通り、異常なしということなのだけれど、ひとつ気になっていることがあって、それは自分の笑いのハードルが下がっているのではないかという懸念であり、完全に、気づかされたのはドン・キホーテのCMだった。
この、永山さんの豹変しての「あるよ!」は笑ってしまった。
こんな『オチ』で笑うことは、いままで絶対なかったのだ。
しかし、最近、涙もろくなったかもしれないし、イライラしてとんがるよりも、しょーむないことにゲラゲラ笑える方が、まあ、いいかもしれない。
このCM、もう一回見てから……お開きにしましょう。