その時です、お医者が床にしゃがみ
「ピピッ!!」
ピピのうしろ姿にむかって叫びました。
するとピピは
「ぐるっ!!」
走っているかっこうのまま、顔をふりむけたのです。
それは、必死さでいっぱいに「ぷうっ」とふくれ、とはいえ、ふりむいたほうのほっぺたは肩に押しつぶされているから「しわしわ」な、さらに二つの目は泣きそうに困ってちいさな点々な、そんな顔でした。
そして、ピピは次の瞬間
「・ちからいっぱい!!!!」
回れ右、いや回れ左をして走ってきたのです。
かがんでいるお医者の前まで飛んでくると、ピピはいきなり
「ぺたん!」
と腹ばいました。
それから、こんどはおおきなおおきな上目づかいで、お医者を見あげています。
「よーし、よし」
お医者はピピをほめ、両脇に手を回して、ピピのからだを持ちあげました。
ピピはまだ困った顔のままだけど、おとなしくお医者の手の中にいました。
そうなのです。
ピピのつらい記憶は、もちろんつらくて恐くて、大嫌い。
でも、けっしてお医者その人を嫌いなわけではないのです。