三月二十六日は、日曜日でした。
わたしはピピを、ペットサロン「フレンド」に連れて行きました。
その目的は、特別なシャンプーでノミをとってもらうためです。
「まあ・・」
ペットサロンの若奥さんが、声をあげます。
「おおきくなったですね、ピピちゃん・・!!」
「はい・・・・・・」
わたしは苦笑いしつつ、煮えきらない返事をしました。
若奥さんが「おおきくなった」というのは、「おとなになった」という意味ではないのです。
「おブタになった」ということなのでした。
おトナよりもおブタが先行するピピちゃんは、わたしが止めるのを聞きいれない母がつくりだしたものですが、ビーグルは元来食い意地がはっているので、おブタ化は最も得意な科目であるともいえるでしょう。
たとえば、今、わたしがテーブルについて、ポテトチップスを食べています。
すると
「どかどかどかどか」
ほら、ピピが存在感たっぷりにやってきましたよ。
そして、わたしが座っているイスのそばの床に
「すっ!」
まるで決まりごとのように、おすわりします。
そう、ピピにとって食べ物とおすわりは、常にセットになる”法則”なのです。
「だめ。ピピはたべられないの」
わたしはキッパリと断り、ハッキリと顔をそむけてツンとして、ひとりで食べ続けます。
「パリン、かしゃくしゃ」
これは、ポテトチップスがわたしに食べられる音。
すると、ピピはすでにおすわりをしているその場で、前足をかわるがわる
「ちょちょっ!」
と、小刻みに足踏みします。
そう、これはおすわり動作の「再現」で
「おすわり、たしかにしました!!」
というアピールなのです。
「・・・ぴぴ・・・・」
わたしは、きりりと座っているピピに、語りかけます。
「それは、逆でしょ。わたしが”おすわり”っていったら、ピピがすわるの。ピピがすわったら、わたしがたべものをあげるんじゃないの」
そうなのです。
いつのまに、どこでどう誤解が生まれ、ねじれてしまったのかわかりませんが、ピピにとって「おすわり」は、人間に食べものをさしださせる命令のようになっているのでした。