雨は、ぽつぽつ降って少し休み、また、ざあざあと降りました。
わたしは傘をさして、ピピと出かけました。
ゆるやかにくねる旧道路のアスファルトは、くろい鏡、しろい鏡を敷きつめています。
道ぞいのあじさいや杉の並木は、その鏡のふちに、冷たいしずくを豊かに落としました。
ピピは鏡の水たまりをパシパシと割り、かけらを跳ね散らかして歩きました。
そして時々
「ブルブルッ!!」
とからだをふるっては、においと音に満ちあふれた世界をしあわせそうに進んでいくのでした。
この頃は、白い橋の下広場で、シェトランド・シープドッグのロッキーと合流することがよくありました。
ロッキーはピピより少しだけ年上の、うちの遠縁にあたる家の犬で、おばさんが散歩しています。
ピピとロッキーは引き綱を解いてもらい、ふらふらふらふら、ふらふらふらふら、広場を歩きまわりました。
そして、いつのまにかピピだけ、姿を消していたのです。
わたしもおばさんも心配して、ピピの名前を呼びながらさがしまわりました。
「ピピー!」
「ピピちゃーん!!」
ピピは、いません。
他のどこにも探す場所がなくなったわたしは
(もしかして、いやまさか・・・)
と思いつつ、広場の北岸につないである工事用の船にむかって呼びかけました。
「ピピー!!」
すると、船の中に
「ちょろっと!」
というかんじで、茶いろと黒の丸い背中が一瞬見え、かくれたのです。
「ピピ!!??」
それから
「ひょこっと!」
というかんじで、ピピがその船の上に姿をあらわしました。
「なんでそこにいるの、ピピーーー!!」
ロッキーはおすいぬですが、そんな、誰のものともわからない「あやしい」船にのりこむような冒険はしません。
飼い主のしつけや命令をよく守るし、家族以外の人間をちゃんと警戒します。
でもピピは、平気でどんどん近づいていき、ずいずい入りこんでいってしまうのです。
そして、こんなふうに誰にでも友好的なくせ、自分の判断となると飼い主に反抗してでも頑固におしとおすのでした。