「よく慣れた犬じゃね」
おじさんは少しも叱らず、ピピをほめました。
そしてわたしに
「あげる」
と言って、ごほうびのように1本の缶コーヒーをくれました。
「・・・・・ありがとうございます・・・・・」
わたしはピピを引き綱につなぎ、そのまま海岸道路のはしっこを歩いて、家へとむかいました。
片手のひもの先で、ピピはすたすた、のんきに楽しそうに歩いていきます。
そして、わたしのもう片方の手の中では缶コーヒーが
(ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ!!)
ひとりで勝手なおしゃべりをしていました。
「ピピのん・・、誰の車でもさっさと乗っちゃだめよ・・」
わたしだけ、あれやこれやな事に焦ったまま、なんだかきちきちとまじめな姿勢で歩いていったのです。
さて、みなさんはもうおわかりですね?
そうです、ピピはとっても車が好きなのです。
毎日、わたしが仕事から帰った夕方、ピピはわたしの車にいそいそと乗りこみます。
それからわたしのひざに座ったり、立ったり、回ったり、とびうつったり、いろいろしながら草原へ向かいます。
ピピはわたしのひざに座り、わざとうしろあたまをくっつけてきます。
まるで、ピピ自身が運転しているみたいです。
わたしは首をキリンみたいに長くのばし、ピピの丸いあたまごしに運転して、細い住宅地の道をゆっくりと走ります。
そうして草原にはいり、いつも車をとめる場所が近づくと、ピピはわたしのひざやおなかをギュッとふみつけて二本足で立ちあがり、窓から顔を出して
「・・・・・・・・・・! ・・・・・・・・・!!」
あついあついまなざしで、じっと草原を見つめるのです。