人間のたくさんの言葉よりずっと強い、子犬の | 4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

4コマ漫画「アメリカは今日もアレだった」

アメリカ暮らし漫画と昔の日本での愛犬物語です。

 やがて、せっかくかけたマフラーを、ピピはあがいて丸めてしまいます。

寒いから、からだも小さくまるめています。
 

そこで、わたしはピピの下から
「しゅうっ」
 とマフラーをひきだします。

ピピはあわててクネクネうごきます。

それでもやっぱり横たわったままで、そのうちフワリとふとんがかかるのを、お姫さまのようにまっているのです。

 

 

 ある晩、わたしは父とけんかをしました。

定年で仕事をやめたあと、父は昼間はテレビを観てすごし、夜にはたびたび女の人とカラオケに出かけてあそんでいました。

母のすきをみてその女の人に電話をし、みだらな話がわたしの部屋まで聞こえてきます。

 

母ははじめ、おこって抗議をしました。でも、なにも変わりません。

母は、長いあいだ父の暴力におびえてきたので、どこか無力にあきらめてしまうのです。

 

わたしが意見をすると、父は顔をまっかにして怒りました。

でも、なんの展開も、展望もありません。

そして二階では、ひとりになったピピがなきわめいていました。

猛獣があばれるか、雷がころがるか、といったさわぎです。
わたしは激怒したまま、ずんずんと階段をのぼっていきました。

 

すると ・・・ピピが、まっていました・・・

 

つないだひもはギリギリまでぴいん!と伸びきり、そのこちらにあるのは、ピピのおでこのタテじわ、ナナメじわ。

ふたつの眉のあたりの、たくさんのたくさんのクネクネじわ、イビイビじわ。

 

そのしわだらけの顔に、階段のちいさな古いライトが、おそろしい効果をつけています。

背景にはピピ用シートが大波になみうち、寝箱は沈没しそうにかしいでいます。

 

わたしの中の怒りが
(くらくら・・)
 と混乱しました。
「・・・なによ。ちょんちゃん」
 怒りの名残りと笑いのはざまで、ピピの耳とほほのあいだに、右手をさしだします。
「ぐうーー」
 ピピはほんとうに

『つらい・・・』

 という音をだし、しわだらけの顔でわたしの手のひらにすがりました。

 

そして、じいっとわたしを見つめます。


 こいぬのひと声。

 

ひとつの、ちいさな顔。

 

それは、人間のたくさんの言葉より、ずっと強い。

その時、わたしはそう思いました。