冬が、別れのあいさつをしていました。
強い、寒い風が毎晩ふきつづけます。
ピピが寝ている通路と、外の庭との仕切りに立てた厚い板が
「ガタン!!」
と倒れます。
姫は泣きました。
「おんおん、おんおん。おーい、おーい・・」
ピピはふたたび、わたしの部屋に泊まることになりました。
夕食がすむと、わたしとピピはひとしきり庭であそびます。
それから、玄関ドアの前でピピの足を4つ、タオルでふいて、家へはいります。
2階へつづく階段では、運動会みたいに競争です。
ピピは背中を丸めて
「ちょんこちょんこちょんこちょんこ!!」
つめをたてて、全身運動で階段をのぼりました。
この強気なちびっこは、古巣へもどったギャングか悪魔のように、わたしの部屋を荒らしました。
スリッパをくわえてきて、齧(かじ)ります。
たたみを齧ります。壁を齧ります。
(・・どうしてこんなに強気なのか、ぜんぜんわかりません。)
わたしは、ピピがくわえてくるたびにスリッパをとりあげました。
そのスリッパで、ピピの小さなあたまを
「パシン!」
とたたきます。
たたかれると、ピピはわたしのほうは見ず、でも目だけ強く光らせて、
(・・・くつじょく!)
といった表情を、やっぱり小さなかおに浮かべていました。
そんな、ある晩のことです。
何回かこの「くわえてきて、パシン!」をくりかえしたあと、ピピはもう一度、わたしのスリッパをとりに廊下へ出ていきました。
それから
「どたどた、どたどた!」
なんだか、ひとりで騒いでいるようです・・・
そして部屋に帰ってきたとき、ピピはなにもくわえていなかったのです。
あとで、わたしは廊下に出て、しばらく立ちつくしたまま、床を見おろしていました・・・
そこには、わたしのひとくみのスリッパが
「あっち!」
と
「こーっち!」
とに、まるで決闘したあとのアザラシさながら、あおむけになり、横だおしになり、ピピの深いふかい悩みと激しい葛藤(かっとう)とを、如実(にょじつ)に物語っていたのです。