第4章 2月・すきっ歯と噴火口(すきっぱとふんかこう)
ピピは玄関ぐらしをやめて、台所から外へ行く勝手口を出たところに寝場所をうつしました。
ずいぶんからだが大きくなり、ぬいぐるみのように玄関に置いておけなくなったのです。
そこは、細ながい土の通路でした。通路の上はぜんぶ屋根がおおっていますが、窓がついた壁は奥側の半分だけです。
のこりの「壁」はどうなっているかというと、にんげんの脚の長さ(高さ)ほどのブロック塀なのです。
この通路には、湯わかし用のボイラー、ガスボンベ、工具や移植ゴテをのせた棚、つるしたタマネギ、あきびんを入れるカゴ、あきカン用の大きな缶、エアコンの排気器具、といったものが並んでいて、あまり優雅な場所ではありません。
通路の奥には木のドアがありますが、反対側の、南の庭へつながるもう一方にはとびらがありませんでした。
わたしたちは、夜になるとこの通路にピピを入れ、庭とのしきりに、大きな厚い板を立てかけます。
お姫さまを、わるものから守るのです。
さて、夜になりました。
暗い通路で
「ダン!」
音がします。
「おーーっ」
お姫さまが叫びます。
懐中電灯をもって行ってみると、丸い目がふたつ、きらきらと金いろにかがやいています。
そして、その金いろ目のピピは、奥のくらやみにむかって、ものすごく真剣な顔をしています。
奥には、タマネギがひとつころがっていました。
つるしたヒモがゆるんで、落ちてしまったのです。
でも、ピピはからだをかたくして、警戒をつづけています。
「ちょぷのん。タマネギの音よ」(・・いったい、どんな想像をしているのだろう?)
わたしは懐中電灯のあかりで照らしながら、タマネギをひろってみせます。
それを、ピピへさしだします。
それでも、ピピは奥のくらやみを心配そうににらみつづけます。
そこでわたしは、じぶんでそこへ行ってみました。
「ね、ピピ。なにもいないでしょ?」
手にもったタマネギを、もういちど落としてみせます。
「・・ゴツッ」
ピピの耳が、ぱっ! と開きます。
「ね。落ちた音」
タマネギをひろい、もういちどさしだします。
それで、ピピはようやく納得して、わたしが立っているところまで静かにやってきました。
それから、
「ふんふん」
と、まじめに点検をはじめます。
それでわたしも
「ふんふん」
と、いかにもまじめに、ピピといっしょに厳しく安全点検をおこなったのです。