ビクトル・エリセ監督の少女アナが主人公の「ミツバチのささやき」は、残念、観た覚えがない。それから31年後の「瞳をとじて」に、再びアナが出演している。

「瞳をとじて」


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テレビ番組『未解決事件』に映画監督ミゲル(マノロ・ソロ)が出演して、自分が監督していた映画『別れのまなざし』の撮影中に、親友で主演俳優のフリオ(ホセ・コロナド)が失踪してしまい、作品が中止になった顛末を語る。

その映画は、ユダヤの老人が「中国人の愛人に生ませた娘を探してほしい」と、探偵に頼むというもの。探偵役のフリオは、扇子をかざして「別れのまなざし」をする娘の写真を老人から預かり、懐に入れるシーン。

ミゲルが映画製作を止めて22年が経ち、彼は海辺の町に移り住んで文章を書きながら、漁師に混じって海に出たりしながら、静かに暮らしている。


テレビ番組を見た視聴者から、フリオを見たと連絡が入る。ミゲルはその海辺の施設を訪ねてフリオに会うが、彼は記憶を失っており、ミゲルを全く分からないようだ。尼僧院で黙々と下働きをするフリオ。ミゲルはその施設を運営する尼僧に頼んで5日間泊めてもらう。

食卓でミゲルとフリオはまなざしを交わすが、フリオの視線はスイと離れてしまう。一緒にペンキを塗り、ベンチに二人並んで紐を結ぶ。自然に「水夫結び」ができるのは、2人の過去に水軍で一緒だったから。

ミゲルはフリオの娘アナ(アナ・トレント)を呼び寄せるが、娘のことすら素知らぬ顔つき。ミゲルは、軍隊から映画の現場、2人ともに好きになった女性…と、再び自分とフリオの人生を回想する。

そのフリオが大事に持っていた写真は、「別れのまなざし」をする娘の写真。ミゲルは中断した映画のフィルムを持っている映画編集者のマックス(マリオ・パルド)に連絡し、閉館した映画館で上映するのだ。

何故フリオが記憶を失ったのかは語られない。最初に映る前後に顔を持つ二面性の石像はローマ神話のヤヌス神か。始まりと終わり、過去と未来、表と裏。瞳を閉じなければ見えないもの。最初と最後に上映される『別れのまなざし』の劇中劇。

1人のもと映画監督が、記憶を失った俳優にただただ関わって行くストーリーだけなのに、とても寡黙な彼らの表情や物語られる過去と今が、どうしてこれほど心に残るのか。エリセ監督の魔法にかかったのかしら。
原題のCerrar los ojosも「瞳をとじる」