イタリア文化会館で、「ダンテ」をみた。ダンテは筑摩世界文学大系のシリーズに『神曲』があり、ボッカッチョの『デカメロン』もあった。あの頃は毎月「届いたら読まなくちゃ」という勢いで読んでいたので、微かに覚えている。ベアトリーチェは確か「天国」で登場していたし、デカメロンは小話の集大成みたいでけっこう面白かった。

 

「ダンテ」

最初にイタリア大使とプーピ・アヴァティ監督が語り合う。日本上映に際しての配慮だろう。


https://2023.tiff-jp.net/ja/lineup/film/3604WFC03


ジョヴァンニ・ボッカッチョ(1313-1375セルジオ・カステリット)は、フィレンツェからのダンテへの賠償金を持って、ダンテの娘を訪ねる役を担い、馬車でラヴェンナに向かう。

今ならせいぜい車で2時間半~3時間だが、当時は車の横木に乗せた木の箱を馬に引かせたような粗末な馬車。出発前にボッカッチョが妻に「もし死んだら」と遺言する辺りも旅の過酷さが伺える。

ボッカッチョの旅の合間にダンテ・アレギエーリ(1265-1321アレッサンドロ・スペルドゥ―ティ)の生い立ち、9歳でベアトリーチェ(1265-1290カルロッタ・ガンバ)を見初めて憧れ、ベアトリーチェに捧げる詩を書き始める。

しかしベアトリーチェは別の男と結婚し、若くして死んでしまう。実際にはダンテとべアトリーチェが会ったのは二、三度らしいが、映画では彼はずっと見守る。

結婚式の時、花嫁に赤ちゃんの人形を抱かせると、子孫が出来るとの言い伝えがあるらしく、ベアトリーチェも赤ちゃん人形を抱かされる。その人形が次に売られていく光景も、巡りゆく運命をつかさどっているかのようだ。

詩人で、ダンテの詩を理解し庇護した名家のグイード・カヴァルカンティとの交流や、フィレンツェの政治でダンテが黒党に属し、白党のグイードとの対立、ダンテの結婚や追放なども描かれ、ダンテの一生を描いていく。

とにかく、この当時はこんな生活だったのねと、例えばボッカッチョは疥癬で両手に包帯を巻いているが、どう見ても清潔とは言えない。軍隊の排泄風景、宿屋の食事なども同じように、現在の私たちにはやや躊躇われる暮らしぶり。

ボッカッチョの旅の少し前、1347~52年にはペストが大流行して、フィレンツェでは人口の半数が死んだが、なるほど流行するわけだと。

この映画は13~14世紀という中世の暮らしぶりが、とても現実的(と思う)に描かれていて興味深かった。次から中世が舞台の小説を読んでも、今の社会とはかなり違う光景を頭に描きながら読めるだろう。



実はこの年末にトイレのウォッシュレット部分が壊れ、焦ってTOTOを呼んだのだけれど、考えてみるとこんな仕掛けはごく最近なのに、壊れるとなんだかとても後戻りはできない。今、タイムスリップで中世に放り込まれたら耐えられなさそう。

そういえば、「トイレット」という映画が面白かったのを思い出した。
もたいまさこの演じる日本から来たバーチャンのため息が、米国はウオッシュレットじゃないからという。そのため息を案じる孫たちの優しさがとてもほのぼのしていた。