今のハマスの攻撃と、イスラエルの猛烈な空爆という報復。殺し合いの連鎖は止むことがないのかと、そして犠牲者には戦闘には全く関わりのない幼い子供も多いことを思うと、絶望的な気持ちになる。そんな時だからこそ、多くの人にぜひこの映画を観て頂きたいと願う。東京を含む関東地方では明日11月10日から公開される。

「ぼくは君たちを憎まないことにした」

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パリに住む小説家志望のアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)、メイクアップの仕事をするエレーヌ(カメリア・ジョルダナ)、3歳のメルヴィル(ゾーエ・イオリオ)の家族。

金曜日、コルシカ島に家族で行く予定だったのに、エレーヌは仕事が入ったから行けないという。アントワーヌは仕方なくキャンセルする。2人を残してエレーヌは仕事先のバタクラン劇場へ。

2015年11月13日金曜日、パリ同時多発テロ。シリアで計画されて送り込まれた8 人のISは、パリのバタクラン劇場、サッカー競技場、カンボジア料理店とイタリア料理店を襲い、130人の犠牲者と300人以上の負傷者を出した。

エレーヌが帰宅しない。アントワーヌは連絡するが、携帯の留守電が虚しく繰り返すだけでつながらない。事件を知って病院を訪ねて探し回っても、名簿にはエレーヌの名はない。そして月曜日、ようやくアントワーヌはエレーヌの遺体に会えた。

父子2人暮らしになり、公園で父親と遊んできて、家に戻ると「ママ!」「ママ~!」と探し回るメルヴィル。

そんな中で「僕は君たちを憎まないことにした(Vous n'aurez pas ma haine…)」とアントワーヌはFBに、テロリストたちに宛てた手紙を綴る。

その一文はたちまち拡散され、1日で2万人以上の人が見た。ル・モンド紙からも連絡が来て、トップページに掲載された。

https://www.lemonde.fr/attaques-a-paris/article/2016/07/17/vous-n-aurez-pas-ma-haine_4970898_4809495.html

2人の暮らしは変わらない。テレビニュースに被害者として映った母親を見て「ママ!」と駆け寄るメルヴィル、突然堪えられない悲しみに襲われ、バスタブに潜るアントワーヌ。観ていても胸が締め付けられる。

3人で行けなかった旅行にも父子2人で行った。輝くようなコルシカ島。


人生は続く。「幸せで自由な人生を送ることこそが、彼らへの返事なのだ」と、アントワーヌは書いたのだった。

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社会にはいろいろな事件、出来事があり、自分が不利益を被ることがある。そうした時に、例え些細な事でも悲しみや怒りが湧くのは当然だと思う。そこから相手や社会への憎しみ、復讐心に陥ることも多いが、それを行動に移す報復は、また新たな報復を生みかねない。

しかし、怒りや悲しみを超えることも人間には出来るのだと思う。怒りは大きなエネルギーであるから、その怒りの原因となった問題を解決することに振り変えることができる。怒りを乗り越えるのは苦しい作業だけれど、そこには人間への希望が生まれると、私は信じている。

彼、Antoine LeirisのFB投稿がたちまち広がり、3日間で20万人にも読まれたことは、人間には憎しみに囚われないという心の強さがあるからだと思う。それは心に光を点す。願わくは小さな光でも人に希望を与え、次の光を点して広がり、世の光となりますように。

なお同名で和訳の本も出版されています。
https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/8008069.html

ドキュメンタリーのように地味な映画ですが、深く心を打たれます。どうか多くの人が、彼の思いに共感して下さいますようにとの願いをこめて。