「ウィ、シェフ!」 


https://ouichef-movie.com/

フランスのレストランでテレビの撮影が始まっている。副料理長カティ(オドレイ・ラミー)のレシピ「ビーツのパイプオルガン」(色とりどりできれい!)のソース、蜂蜜とハイビスカスを、オーナーシェフのリナがバルサミコに替えると言う。カティは抗議し、怒って店を辞めてしまう。彼女の見事な怒りっぷり。


カティの職探しは上手く行かず、「魅惑の空間のシェフ求む」という広告先を訪ねると、そこは移民の青少年の収容施設。

施設長のロレンゾ(フランソワ・クリュゼ)は、「‟施設“では応募が無いので書き換えた」としれっとしている。

さっさと帰ろうとするカティだが、友人の「半年働いて貯めれば店が持てる」のアドバイスに従うことに。

「缶詰を開けるだけ」のランチに、カティはラビオリのソースを作り直し、綺麗に盛り付けたが、昼食時間は2時過ぎ。男の子たちは腹ペコでパンを齧る。

ロレンゾが時間通りに出すように予算は幾らと伝えると、カティは「手が足りない」。そこで子供たちが手伝うことになる。

エシャロット(大きくて玉葱みたい)をまな板に並べ、切るところから訓練。でも子供たちは面白がって頑張ってついてくる。

カティは畑から収穫すること、野菜を買うところから一緒に行動する。そして料理だけでなく、盛り付け方、サーブの仕方までキッチリと教えていく。子供たちに、カティの言葉に「ウィ、シェフ」との返事を命じながら。

そしてテレビの「ザ・シェフ」対決にカティは出演。


最後に勝ち残って対決する2人は、店を開き、飾りつけや料理を客に出すという番組。さて、カティの店はどんなだろう!ここはぜひ映画で観て下さい。

彼らは18歳になるまでに職業訓練学校に就学できないと、強制送還になる。そして出演しているのは、パリの移民支援施設で暮らす子供たちの中からオーディションで選ばれたから、同じ状況に置かれている。

だから、彼らは自然に自分の心境を出せた。リハーサル無しでほとんどが本番だったとのこと。ということは実際に、彼らの中でダロワイユのシェフになった青年もいれば、強制送還になってしまった青年もいる。自分の国の料理を語るシーンは切ない。

カティの過去も明かされていく。幼いカティに料理を教えるシーンの先生役は、ルイ=ジュリアン・プティ監督に、この作品のインスパイアを与えた女性。実際に難民青少年の調理学校を開いて職業訓練をして、皆コックになって生きていく道を得たそうだ。

子ども達がサッカーをするシーンがあるのだけれど、ロレンゾ役のクリュゼが本当にアキレス腱を傷め、その後の撮影は松葉杖姿になったとか。いろいろエピソードの多い映画で、真実がたっぷり込められている。

この記事はぜひ読んで下さい。よく分かります。
https://lee.hpplus.jp/column/2627275/

原題は「La Brigade」(小隊)、軍隊用語だが、料理の現場でもチームの意味で使われるとか。


私は約20人の生徒で500人余の生徒の昼食を毎日交代で作るという中・高の学園にいた。寮にいたから月に2回は当番で昼食夕食も8人くらいで200人分を作る。

中学1年から高校生、学年ごとにお料理のテーマもあり、中学1年のお煮付けの献立から始まって、高校生になるとフランス料理店のシェフの指導を受ける。

時々教室にまで何かが焦げた匂いが漂い、リーダーが「焦がしてしまい…」、「お砂糖とお塩が混ざって…」など、涙ながらの報告になることもあった。

おかげで献立も澱粉質、蛋白質、野菜、豆、海藻、果実類など栄養素がすぐに頭に浮かび、大きなお釜でご飯を炊き、猛烈な速さで野菜を刻み、魚を下ろせるようになった。

調理はチームで役割担当を決めるが、自ら動かないと食事時間に間に合わなくなる。だからこの原題の「La Brigade」に大いに納得した。

学園の卒業生たちは、阪神淡路、東日本大震災時に炊き出しに駆けつけて大活躍した話を何人もから聞いた。透析を受けている妹も合間の日には働いたとか。

料理は段取りがいろいろあるから認知能力の訓練にもなり、ボケ防止にもなるそうだ。人は食べなくては生きていけないのだから、せめて365日、美味しい人生を過ごしたい。

難民といえば、日本への難民申請は法改正で、2回却下されて3度目は相当の理由が無いと強制送還になるという。先進国では群を抜いて難民受け入れに不熱心な日本だ。

この映画のように彼らをきちんと学ばせて、役立つ人として社会に送り出すシステムは出来ないのかな。万一送還されても手に職があれば生き易さが違う。難民だって一人の人間なのだから「彼らのため」を心から考えて支えるような国の市民でありたい。

難しいこと抜きでも、皆気持ちの良い人達で、パワフルで楽しい映画でした。