スティーブン・スピルバーグの若い日々を監督自身が描いたと言うのだから、この天才はどこから、どうやって来たのかな?と思ってしまう。

「フェイブルマンズ」

https://fabelmans-film.jp/

サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ダベル)は、奔放で芸術的な母ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)と、技術者で生真面目な父バート(ポール・ダノ)の子として生まれ、可愛がられて育った。

初めての映画「地上最大のショウ」を観て、サミーは心を奪われた。買ってもらった撮影機で、模型の列車を使って列車の衝突シーンを再現する。リアルであるかのように映ることに、どれほど心を躍らせたことだろう。

そして彼は夢中になって映画を撮影し始める。妹たちにトイレットペーパーを巻き付けてミイラのゾンビに仕立て上げ、友達を使って西部劇。こんな子供の頃から西部劇が好きだったのね!

父親は映画に夢中な息子に、「趣味にばかり…」と不安に思うが、母親は「趣味と言わないで」と、彼の才能を認める。技師として実社会で生きる父親の杞憂もよく分かる。彼の映画製作は、母親の芸術性と、それを仕事として可能にしていく父親の知恵が生きたのか。この家庭での父親の立場の寂しさのような空気の漂う演技だった。

サミーは友人や家族にもレンズを向ける。見ただけでは一瞬のこととして忘れ去られるものは、フィルムに残ると意味を持ってしまう。透けるドレスで踊る自由奔放な母親と、父母の友人ペニー(セス・ローゲン)の姿。編集をしていて友人以上の関係に気づくサミー。その先の父母の離婚とつながっていた。

驚いたのは一家が東部から西部に引っ越して、高校でユダヤ人だからと苛めにあうこと。西部って開放的だと思っていたので驚いた。彼は苛めていた傲慢で偏見のあるクラスのリーダー格の生徒にカメラを向け、もう1人のいじめっ子のドジっぷりと対比させ、まさに学校の正しいヒーローのような姿に編集してしまう。自分が決してそんな生徒ではないと分かっている本人は、苦い思いを噛みしめる。映画の怖さを知らされる思いがした。

ちょっと残念だったのは、彼が本格的に映画製作に関わるところで終わってしまうこと。観客には、サミーが最初に映画界で出会う大人物をデビッド・リンチが演じるというという贈り物があるのだけれど。せっかくノンフィクションにしたのに、もう1つ娯楽性と盛り上がりに欠けたのは、さすがのスピルバーグも自伝という枠に縛られたのだろうか、吹っ切れていない感じが残った。★3



8㎜カメラが懐かしかった。子供の頃、父親が買って来ていろんな映像を撮った。その頃、両親はまだ幼い私たちを残して、年に1,2回仲間とスキーに行っては撮影し、上映会をする。みんな、雪のない南国育ちだから、盛大に転んでいる。そのフィルムを最後に逆さに回すのだ。下から上へスキーが滑るように昇って行き、食事風景はおうどんやカレーライスが口から…。ヘンな映像に大笑いした楽しい上映会。あのフィルムはどこに行ったのだろう。