今日から東中野のポレポレ坐で上映されます。
島田隆一監督のゲイの男性と、彼の養子となった青年のドキュメンタリー。


「二十歳の息子」

https://hatachi.brighthorse-film.com/#modal
↑この公式サイトも、とても心に沁みます。

網谷勇気は、児童養護施設の子どもたちの自立支援団体「ブリッジフォースマイル」で働いている。またゲイをカミングアウトしており、その活動もしている。両親と一緒に暮らしていて、家庭を持つなんて考えてもいなかった。

渉は、生まれて直ぐから乳児院育ち。両親のことは全く知らない。乳児院から児童養護施設で育ち、家庭も知らない。施設に来る網谷とは、高校の頃から知り合っていた。
彼は何かの事件を起こし、拘置所に入れられていた。

網谷は、出所した渉を養子に迎えて父親になり、アパートを借りて一緒に暮らし始める。年齢の離れた男2人の急拵えの「家族」。2人の戸惑いが丁寧に描かれる。

網谷は実家に渉を連れて行く。両親のほかに姉が子供を連れてきている。いろんな世代のいる家族、家庭に初めて混じる渉の躊躇い。そんな渉に子供はなんの屈託もない。

アルバイトを始め、養護施設時代の友人と過ごし、夢を語る渉はのびやかだ。それでもサッと差す不安の影を感じさせる表情を島田監督は捉える。20歳、こんなに丁寧に2人の姿を、しかも自然な表情を捉えていった監督とは、強い信頼関係が感じられる。

網谷はなぜ養子縁組をしようと思ったのか、たぶん、ただ、渉に必要だと思ったからではないか。渉は独立していくが、何か相談したい時に、「親」がいること、帰る「家」があることは、どれほど大きいことだろうかと思う。

島田隆一監督の言葉「彼らのように生きる人たちが生きづらさを感じているならば、それは我々が作り上げてきた社会の側に責任があるのです。」に頷く。

親と一緒に暮らせない子供たちのことが心の片隅にある人、「普通」とか「世間」ってなんだろうと思う人にお勧め。ひっそりと温かさの沁みる映画です。


渋谷での試写会の帰り道。にぎやかな路上で、金髪に赤いコートの大柄な青年に呼び止められた。彼は、「風邪を引いて、そこの薬を買おうとしたら300円足りない」、続けて「ホントは500円なんだけど」。

およそ作り話だろうと思うが、お金が無くて困っていることだけは事実だろう。私にとって500円は出せるお金で、彼はこんな僅かなお金のために声をかけている。「早く風邪が治ると良いね」と言って500円を渡した。今夜の夕食と寝場所まで何人に声をかけて、幾ら手に入れなければならないのだろう。

お金を渡すことが良いのか悪いのか分からないが、彼と私が一瞬出会ってしまったことは確か。ドラッグ代わりの薬なんかに使うことがありませんように。ソーセージパンくらいなら買えるよね…。