「ばあばスパイ」と呼ばれた英国女性の実話からの作品。

「ジョーンの秘密」 ★3.5


https://www.red-joan.jp/

2000年、穏やかに1人で暮らしているジョーン(ジュディ・デンチ)の家に、
突然、MI5が踏み込み、公務秘密法違反で逮捕されてしまう。

きっかけは外務事務次官ミッチェル卿の死。彼の書類調査で、
彼とジョーンが、ソ連のスパイであったという証拠が出てきたという。
厳しい調べは1938年、ジョーンの大学時代にまでさかのぼる。

ケンブリッジ大の物理学科に進んだジョーン(ソフィ・クックソン)は、
ユダヤ系ロシア人のソニヤと、従弟のレオ(トム・ヒューズ)、
ミッチェル卿らと出会い、共産党の会に誘われる。

1941年、核兵器開発機関に事務員として雇用されたが、
優秀な彼女を認め、機密事項の研究にも携わらせたのは、
リーダーのディヴィス教授(スティーブン・キャンベル・ムーア)。

そんなジョーンに、ソ連と通じているレオは、情報漏洩を迫る。
愛しているレオだが、出来ないと断るジョーン。
しかし広島・長崎に原爆が投下される。

若き日のジョーンを演じるクックソンの揺れ動く表情が上手い。
あの時代の英国の大学の若者たちの雰囲気も良く出ている。
これはレオの演説



裕福に育ち若く鋭敏な彼らは、折からの不況で苦しむ貧困者層に対し、
平等を説く共産主義、マルクス思想に理想社会を見たのかもしれない。
ケンブリッジ・ファイブの、MI6のフィルビー事件はかすかに覚えがある。
http://www.news-digest.co.uk/news/features/12372-cambridge-five.html

モデルとなったメリタ・ノーウッドは大学も違い、ジョーンと違って、
確信的な共産主義者であったらしい。映画は多分に脚色されている。

ジョーンは米国の日本に対する核使用とその悲惨を見て、
米ソの核の均衡によって核抑止を願ったことになっている。

確かに一理はあり、彼女は確信していたことになっている。
そして、苦悩する息子の最後の言葉で救われただろう。

ジョディ・デンチが語っている。



歴史や時代の空気も良く分かり、ジョーンの気持ち、そして
広島・長崎の後、核が使用されることが無かったことも事実だ。

それでも納得がいかず後味が悪かったのは、
1つは、スターリンの非人道的なソ連国家であったこと、そして、
今のプーチンのロシアも野党の逮捕や不審死が相次ぐなど。

もう1つは昨年の時点で、地球上には1万5000個もの

核兵器の存在がある。米国とロシア各約7000個、

中国・英・仏・印・イスラエル・北朝鮮で合計約1000個。

いつどこで事故や、戦略的・狂信的に使用されるかもしれない、
こんな危うい世界で人類は生きていかねばならないわけだ。

この世界を作り上げた一助にジョーンの行為が…という思いが拭えず、
作品としてはよくできていると思うが、共感は難しかった。★3.5