スペイン系のフランス人エヴァ・ウソン監督は、
イラク北部のクルド人自治区の難民キャンプに赴き、
キャンプや前線で、出会った女性たちの話を聞いて制作したという。


「バハールの涙」 ★★★★☆

 

 


http://bahar-movie.com/

クルド人自治区域の中でも、宗教的に少数派のヤジディ教徒は、
イスラム教ではないというだけで、ISの標的にされ、
男は皆殺し、女性は性奴隷に、少年は洗脳教育でISの兵士にと誘拐される。

ある日突然、目の前で夫を殺され、息子を誘拐された弁護士の
バハール(ゴルシフテ・ファラハニ)は、自身も囚われたが、なんとか脱出。

家族を奪われ、「被害者としているだけでなく…」と言う女性たちの部隊
「太陽の娘たち」(原題)の司令官となり、銃を持って立ち上がる。
女に殺されると天国に行けないイスラムの男たちには、怖い部隊だ。

密着取材をするマチルド(エマニュエル・ベルコ)は、
やはりフォトジャーナリストの夫を紛争地で失い、
自分も片目を失いながら、娘を国において取材を続けている。
「言葉は無力だが、それでもなお伝え続けなければならない」と。

バハールの過去と、銃を持って戦う現在が混じるが、
現在にマチルドが登場することで区別がつく。

現在の戦闘シーンには、胸を突かれるようなリアリティがあるが、
現在がすでに明らかなので、過去にバハールが囚われて、
脱出できるのかどうなる?というスリリングさは欠けてしまう。
ドキュメンタリーならともかく、構成が少し残念。

バハールたちは、家で家族と平和に暮らしたいだけ。
母親として、息子を手元に置いて育てたいだけ。
「戦い」のゲームを好んで戦っているわけではない。
しかしゲリラ戦の残酷な現実は、仲間の死を招く。

多くの女性は、子を産み育て、家庭的な幸せを願う。
平和なら可能なことが、戦争状態では不可能となるのね…。



2月1日に公開される「ナディアの誓い」は同じヤジディ教徒で、
性奴隷から脱出し、その実態、非道さを訴え続けている
ノーベル平和賞のナディア・ムラドさんのドキュメンタリー。

今、世界で起きていることを、多くのマチルダが伝えてくれたことを、
私たちは知って、受け止める必要があるとつくづく思う。
例え、何ができるというものでもないとしても。