この時代を知らない人は、調べてから観に行ったほうが、
戯画化されたそれぞれの人物への

興味がずっと深まって面白いだろうと思う。

「スターリンの葬送狂騒曲」  ★★★★☆
http://gaga.ne.jp/stalin/

 

 

 


レーニンの後を襲ったスターリンは、恐怖政治を敷いた。
彼の「暗殺リスト」に入った人は、社会から姿を消す。
その数、数百万人、シベリアに送られたのか、銃殺されたのか。


そのスターリンが、1953年3月に倒れた。
医師を呼ぼうにも、腕の良い医師は粛清されている。
(1月に高名なユダヤ人医師9人を本当に逮捕している)

最高幹部たちは、倒れたままのスターリンを横目に
権力争いを始め、腹心のマレンコフ(ジェフリー・タンバー)は、
「代理は自分が勤める」とすかさず宣言する。

娘のスヴェトラーナ(アンドレア・ライズブロー)が、
駆けつけるが、やがてスターリンは遺言を残すことなく死亡。

スターリンの死を知る別荘の雇人や兵士、医師までが、
口封じのため、あっさりと殺されていく。
唖然とするが、事実かもしれない…。

スターリンの手となって大量虐殺を実行していた
ベリヤ(サイモン・ラッセル・ビール)は、
急遽、囚人を釈放して国民の人気を得ようと画策。

葬儀委員長となったフルシチョフ(スティーブ・ブシェミ)は、
葬儀で立つ位置やら、式辞やらで自分の立場を利用して、
権力を得ようと、反ベリヤの根回しをする。

ピアニストのマリヤ(オルガ・キュリレンコ)は
身内を殺されながらも権力を恐れないが、
フルシチョフは彼女が姪のピアノ教師なので、
マリアが、自分の致命傷になりはしないかと恐れる。

ほとんど無意味な理由で、そして連座制で、
大量虐殺が行われていた恐怖の時代であることを、
映画はそこかしこにちりばめる。

この映画が、ロシアで上映禁止になったのは納得できる。
ここまでの大虐殺ではないが、最高権力者の暴挙は、
マレンコフ、フルシチョフ、ブレジネフの時代も続いた。

ゴルバチョフのペレストロイカで、社会主義内とはいえ
徐々に民主化するかと思われたソ連邦だったが、
ロシアとなって初代大統領を務めたエリツィンが、
プーチンに譲ってからは、ジャーナリストや政敵の、
不審な死が続くようになった。

ブラックユーモアで包んで笑えても、
権力者の心の奥底の暗闇には、ゾッとさせられる。

コメディ仕立てなのに、ほとんど事実なのが、
なかなかシュールで、それを思うと怖さが滲む。

私はフルシチョフ時代の半ばくらいからしか記憶はないが、
それでも歴史としてのレーニン、スターリン、ベリヤ、
マレンコフなどは、およそ知っていた。

だから彼らが戯画化されているのを見ながら、
ああ、そこを強調してるな…とか面白く観た。
権力を持つと、そこから転がり落ちることは恐怖なんだろう。

スターリンの娘のスヴェトラーナはアメリカに渡って、
父親についての本がベストセラーになった記憶があった。

でも調べなおしたら、結婚や離婚と父親に振り回され、
インドに行ったのを機会に亡命したとか、波乱万丈の人生。

息子のワシーリーは父親を利用して空軍中将にまでなったけれど、
そこまでの能力はなく、最後はアルコール依存症で死亡。

その兄のヤーコフに至っては、父親に疎まれ、
ドイツ軍捕虜になっても助けはなく、悲惨な自殺を遂げている。

まさにスターリンの子供ゆえの不幸としかいいようがない。

イギリス流ユーモアで包んでも、ブラック過ぎる歴史の一幕だった。