【Shes' Interview】2000年8月 | 五島高資のブログ

五島高資のブログ

俳句と写真(画像)のコラボなど

俳句の世界のおもしろさ--俳人 五島高資さん

 

 

誰でも一度は作った記憶のある「俳句」。
むずかしいものと考えがちですが、じつは俳句ファンは非常に多

く、子供から大人まで幅広い愛好家に親しまれているのです。

 

その俳句の世界で、次世代を担う第一人者と期待され、

『俳句スクエア』というホームページで多くの俳句を公開して

いる五島高資さんに、俳句の魅力をうかがってみました。五島

さんは、俳人であると同時に血液学を研究する医師でもあります。

 

 

 

●●こどものころ、俳句の世界は目の前に広がっていた

 

--プロフィールを拝見すると、13歳で長崎新聞ジュニア

俳壇年間優秀賞を受賞しておられますね。俳句はいつ頃から始め

られたのですか。

 

 本格的に始めたのは、中学一年生、12歳頃ですね。それまでも

母がよく俳句を聞かせてくれていたので、自分で作っていました。
 僕は小さいころ田舎に住んでいて、家のすぐ前に俳句に描かれ

ているとおりの世界が広がっていたんです。たとえば「菜の花や

 月は東に 日は西に」という蕪村の句のとおり、家の前には菜

の花畑があって、弟と遊んでいて夕暮れになると、日が西に落ち

ていき、月が東から昇ってくる風景が目の前にあったんです。

だから俳句の世界に入りやすかったのだと思います。

 


●●「これは言い得たな」という快感

 

--俳句の魅力とはどんなところなのでしょう。

 

 たとえば自然の美しさなどに直感的に気づくことができる、

ということでしょうか。言いかえれば、“真実に気づくことが

できる”というのが究極の魅力だと思うんです。真実とはなにか、

というととても難しいのですが。

 言葉というものは有限ですが、自然の世界は無限です。

有限な言葉によって無限の宇宙や自然を表現し、事実だけでなく

無限の真実にに迫るのが俳句です。俳句を作っていて、チラリと

だけでもそうした真実に出会う瞬間というのがあります。その

真実を「言葉で捉えることができた」、「これは言い得たな」

という快感が得られることがあるんですよ。そういう瞬間に

魅了されたことが、いまも俳句を続けている理由です。

 

 

 

五島高資 著『海馬』

著者の英訳付き。

角川書店

定価2,800円(税別)

 

--俳句には、独特の言い回しが多いですよね。

 

 俳句には「切れ」というものがあるんです。

 

 

 

--「古池や 蛙飛び込む 池の音」の「や」という言葉ですね。

 

 そうです。俳句における「切れ」とは、日常で使う言葉に付随している固定観念を取り払って、ものの本質に迫るために俳句が獲得した詩法の一つなのです。
 

 最近よく「キレる」という言葉が使われますよね。「切れる」というのは、常識から外れたことをしてしまう、無意識になる、ということなんです。切れない子供はある程度我慢をしたり、ものごとを合理的に解決しようとするのだけれども、それができなくなったときに「切れて」しまう。

 

 

--俳句とは、そうした「切れ」を受け容れる世界なのですか?

 

 戦後、西洋的な合理主義というものがどっと日本に入ってきました。その典型的な考えかたが、善悪や真偽といったふたつの側面を対立的なものとしてとらえる考えかたです。

 でも、ものごとには、二項対立だけでは解決できないことがたくさんあります。その時にいったん、善悪がおりまざった混沌の状態に戻るということが必要だと思うんです。むかし日本では、そういう混沌とした状態を「まこと」と呼びました。そういう混沌や無意識の世界の中にこそ、じつは真実が隠されているのではないでしょうか。俳句のリズムや「切れ」の中には、その手がかりがあると思います。

 

 

●●医師も俳人も同じ

 

--医師というお仕事と俳句とは、まったく違う世界のものの

ように思われるのですが。


 俳句も医学も、結局のところは同じだと思うんです。俳句は、

言葉をとおして真実に迫りますし、医学は実験などの方法によ

って真実に迫るのですから。だから僕自身は違うことをやって

いるとは思っていないんですよ(笑)。

 

 臨床医というのは、科学的な手続きを踏んで真実を追究する

という側面がある一方で、患者さんという人間を相手にしなく

てはなりません。人間同士のコミュニケーションが絡む以上、

理系的なものの考えかただけでは解決できない部分がある。

ですから医学は、文学や心理学など人文系の感性が必要な学問

だと思います。

 

 

 

--話が変わりますが、ホームページを立ち上げられたのはいつですか?

 

 1998年の3月です。コンピュータ社会って、殺伐としているじゃないですか。誰だかわからない、顔も見えない相手とやり取りするような……。さっき言ったような合理主義が蔓延するような社会で、俳句が多くの人の安らぎになるようなものになればいいな、と思ったんです。それに、まったく俳句と関係ない人たちと、俳句をとおしてやり取りができるといいな、とも思いました。

 

 

--俳句を投句(投稿)できるコーナーもありますね。どうやって俳句を作ればよいのでしょうか。

 

 『俳句スクエア』にも、それまでまったく俳句を知らなかった人が、投句してくれていますよ。

 俳句を作ってみたいと思うかたは、まずは五七五で、季語を入れて詠んでみて下さい。もちろん厳密な決まりというわけではないのですが、将棋で定石があるように、まず最初は決まりごとにのっとって作ってみるのがよいと思います。

 

 

--どんなことを題材にとればよいのでしょうか。

 

 『俳句スクエア』にも、それまでまったく俳句を知らなかった人が、投句してくれていますよ。

 有名な俳人の中には、あからさまに恋愛のことを詠むと嫌がる人もいますけど、僕は俳句を作る対象はなんでもいいと思っています。ただやはり、俳句は感動しなくては作れません。感動を得るには、日ごろから心のアンテナをはって、好奇心をもっておかなくてはならないんです。

 また、常識を超えたところにある面白さを出していかないと、つまらない句になってしまいます。心の琴線に触れるような俳句を作るには、自分なりのものの見かたを日ごろから養うようにしておくのがいいでしょう。

 分からないものに対して興味を持つということが、詩を見つけるきっかけになると思います。詩は、いろんなところに潜んでいるので、それに気づくような目を養ってほしいと思います。

 

五島高資氏 プロフィール

 

昭和43年 長崎市に生まれ

自治医科大学医学部卒業後、僻地医療にたずさわるため対馬へ。

第13回現代俳句協会新人賞や、句集『海馬』に対して駐日

スウェーデン王国大使よりスウェーデン賞など多数の賞を受賞。

雑誌などに執筆するほか、NHKのテレビ番組への出演なども。

 

*なお、五島さんは、10月から雑誌『俳句現代』(角川春樹事務所)

に連載を予定。年末には角川書店から第二句集が発売されます。

この句集は、自ら訳した英語の対訳がつくそう。「いつか俳句が

ノーベル賞をとる日がくるはず」という五島さんの活躍に、

これからも要注目です。

 

●五島高資の俳句スクエア
https://www.haiku-square.com/

このHPでは俳句だけでなく、評論なども読むことができます。

投句もできるので、関心のある方はぜひ。

                  (Shes.net編集部 H )

            上記は、2000年8月10日の記事です。