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捕われの身となった彼(彼女?)は、

 

私の前を行く本間副会長のカヌーの乗組員となり、

 

友人、知人、親戚一同?に別れを告げ、

 

バドリングクラブの珍客として、歓迎の声と共に、川を下ることとなった。

 

本間氏のカヌーには、

 

ツーリングの際には、いつも貴重品と書かれた、

 

ジュラルミンのケースが積み込まれており、

 

鈍く怪しげな光沢を放っている。

 

何でも、このケースには、本間氏の生命と同じ価値の財宝が、

 

びっしりと詰まっているという話しだが、

 

捕虜の身である泥亀は、そんなこととはつゆ知らず、

 

このケースの周りをグルグルと廻り始めた。

 

「こらぁ!貴重品に近付くな!」

 

本間氏の一喝が、川の流れの中にコダマした。

 

泥亀は本間氏の大きな手で空中に持ち挙げられ、

 

トクトクと説教を聞かされた上、足蹴にされた。

 

何を隠そう、ジュラルミンのケースの中には、

 

通称「生命の水」と呼ばれるアルコール飲料が静かな寝息をたてていたのである。

 

我々の旅は続く。

 

しばらく行くと、はるか先の方で、

 

ザアーザアーという水音が聞こえてきた。

 

我々はこの音が聞こえてくると、ある種の恐怖感と共に、

 

ゾクゾクとする、なんともいえない緊張感で全身が熱くなる。

 

これらの水音は、小さな滝であったり、

 

あるときは急流の瀬であったりする。

 

このような瀬は、カヌー用語では、

 

一級から五級迄の単位で表現され、

 

その激しさや下る難度により分類されている。

 

級が大きい程、その流れの激しさや難度が増す。

 

やがて、大きな瀬が現れて、

 

カヌーは荒々しいしぶきの中でもて遊ばれ、急流との格闘となった。

 

波にもまれながらも、緊張の中、

 

どうにかクリアー出来て、ほっと胸を撫で降ろした。

 

周りを見回してみた。

 

誰も「沈」した者はいない。

 

皆がにっこりと笑っていた。