2024年1月24日~2月4日 宝塚バウホール・月組公演
●ミュージカル「Golden Dead Schiele」 作・演出/熊倉飛鳥
混迷の世紀転換期に、斬新な色彩、構図、造形美で、瞬く間にオーストリア画壇にその名を馳せた、若き天才画家エゴン・シーレ。心の奥に傷を抱えながらもそのすべてを絵筆に込め、波乱の人生を駆け抜けていった孤高の画家の姿を、鮮烈に描くミュージカル作品。彩海せらバウ初主演作。
2月3日14時30分公演、5列目で観劇。
※ネタバレ注意。
私は全く知らない画家で、スカステの初日映像も見ずに観劇しました。
若き芸術家の転落人生を描いた作品で、バウのオリジナル作品あるあるの暗く重い感じでした。一幕は幼少期から絵が好きでしたが、親の反対を押し切って画家になり、徐々に名声を高めて行くものの、事件に巻き込まれて・・・で終わります。丁寧に描いている割にはテンポよく物語は展開しますが、イマイチ盛り上がりに欠けます。一幕ラストで盛り上がるのはちょっと遅いかな。二幕は一幕での事件が終わってしまっており、そこがどうなるか知りたかったのに、トントンと話が進みます。それが全部唐突に感じてしまって、フィナーレもあるから時間が足りずで終わり方も尻切れトンボな形でした。
物語の冒頭が主人公の最期の場面から始まり、回想的に話が進むのに、最後でしっかりとした結末であったり、あの世で二人は結ばれましたというようなベタな終わり方でないと消化不良です。
若手演出家の作品ですが、主人公の死の幻影という「ロミジュリ」の死みたいな役で出て来たりと、あまり斬新な作品でなく、無難なバウ作品という感じですね。それだけに駄作でもなく、秀作でもなくというのは残念かな。主演のパンチの弱さはあるものの、脇を固める生徒の好演があったので、脚本さえしっかりしておれば、それなりにいい作品に仕上がったのになと思います。
バウ初主演の彩海せらは画家のエゴン・シーレ。
パンフの説明には「画才はあるが、浪費家で自尊心が強い」とありましたが、そうは感じませんでした。たしかに絵に対する拘りや、自身の独特な考え方はあるなとは思いましたが、自尊心が強くは見えませんでしたね。それは彩海のキャラクターにもよるとは思いますが、もっと傲慢で絵しか興味がないという人物でないと主役としての面白さはありません。浪費家と思えるような場面もなかったし・・・。彩海自身は技術的な面は高いし、期待の男役ですが、やはり少し小柄なところで押しやパンチの弱さが感じられます。和希そらぐらいドヤ感があれば、この主人公にはピッタリだったかな。
バウ初ヒロインの白河りりはモデルで身寄りのない貧しい娘。
なかなか可愛くて、歌も歌えるし、お芝居もまだ未完な部分はあるものの、心優しい女性というのが感じられました。それだけに最後に向けて可哀そうに思ったし、ハッピーエンドになって欲しかったです。エゴンの一番の理解者だけにね。
画家のグスタフ・クリムトを夢奈瑠音。
二番手格というより、専科がやってもおかしくないぐらい、芝居を締める重要な役どころを好演。以前はスタークラスながらも、地味な感じでしたが、今回は芝居が上手いなと感じました。多くを語らずとも理解している頭の良さと、どんな人も受け入れる器の大きさがあり、この役が下手な人だと見てられなかったでしょうね。髭も似合っていて、フィナーレのカッコよさとは対照的で良かったです。
エゴンの後見人のレオポルド・ツィハツェッグを佳城葵。
エゴンの父親の亡き後、エゴン一家の面倒を見ているが、エゴンに対しては悲観的に思っている。常識人すぎて、鉄道員という職に就かずに画家になりたいということが理解し難く、お金の支援もしているだけに、エゴンには冷たいんでしょうね。ここもなかなか上手くて、芝居を締めてました。
美術記者で画家のパトロンのアルトゥール・レスラーを英かおと。
スタイルの良さと髭で、彩風咲奈に見えましたね。エゴンに対しての理解者の一人。しかしそこまでエゴンに支援出来続ける理由は何なのか?孤立していくエゴンを応援しているので、観ている側にしたらすごく心強い存在でした。
エゴンに憑く死の幻影を彩音星凪。
美味しい役で、カッコよくて目立ってます。もっと主人公を死の淵に追いやるぐらいのヤバい奴に描いて欲しかったですね。
エゴンの父親アドルフ・シーレを大楠てら。
デカいよねぇ(笑)。厳格な父親らしい雰囲気がありました。
エゴンと結婚する中産階級の娘でエディト・ハルムスを花妃舞音。
可愛らしい雰囲気で、この作品での娘2的な役柄。昨年の新公でも思いましたが、声が独特なので役の幅が狭まるかな。
その母親のハルムス夫人を組長の梨花ますみ。
出番は主に二幕ですが、家柄を重んじる嫌味な母親。まぁとくに為所はありませんがね。
踊り子のモア・ナイミュールを羽音みか。
色気が足りず惜しい。
男役陣の脇がいい芝居をしていて、主役を立てるいい体制だっただけに、脚本の盛り上がりのなさと、最後が中途半端だったのが残念でした。