世の中には、たくさんの数字を使いながら説明をする人がいる。
確かに、数字を使うと、話は具体的になる。
だが、数字で話されれば話の内容がわかりやすいかというと、必ずしもそうでもない。
単に数字が羅列されても、その数字が持つ意味がわからなければ、話し手が結局何を言いたいのかも理解できなくなってしまう。
書店に置かれたこの本のタイトルを見ながら、
「『数学的』話し方・・・数字を使って効果的な話し方をすることだろうか?」
と考えながら手に取ってみたが、実のところ、そうではなかった。
確かに、数字を入れて話す(数字で話す)ことも重要だとは本書でも書かれている。
けれども、「数字で話す」ことは、「数学的に話す」ことと同じではない。
効果的な話し方の一つに、AとBの比較をした結果をもとに、自らの主張を裏付けるという方法がある。
だが、その比較は数字で表せる場合もあれば、数字では表せない場合もある。
物事を比較し、対比して話すことで、聞き手には、話し手が言おうとしていることのポイントが伝わりやすくなる。
「比較」は、筆者が言う「数学的」思考の一つだが、それ以外にも、「数学的」思考には「定義」、「分解」、「構造化」、「モデル化」などの方法があるという。
人が話をする時に、冒頭でどのような前提を「定義」するのか。
主張を裏付けるためにどのように物事の「分解」や「比較」を行い、また、どのような「構造」や「モデル」を使って説明するのか。
そうした意識を持ち、準備をしたうえで話すことで、自分の言いたいことが相手にうまく伝わる説明ができるようになるという。
それは単なる話し方の変化ではなく、考え方にも変化をもたらす。
というよりも、話し方の変化は、考え方の変化によってもたらされると、筆者は言う。
もしあなたが自分の話し方を変えたいとするなら、「話し方」そのものを変えようとするのではなく、結果的に話し方が自動的に変わる何かを変えようということです。
本書ではそれを「思考」とします。
思考、つまり考え方が変われば、話し方も変わる、そう思っています。
そして、「数学的に考えること」がその正解だというのが、本書の主張になっている。
確かに、分かりやすい話し方のことを、私たちは「理路整然」と表現する。
だが、なぜその話し方から「理路整然」という印象を受けるのかは、あまりわかっていないことが多いのではないだろうか。
知らず知らず無意識のうちにしているかもしれない工夫を、意識的に行っていくことが、思考力や話す力を強めるトレーニングになる。
著書の最後に筆者はこうも言っている:
私は本書において、思考(つまり考え方)を変えると話し方も変わると説明しました。しかしそこにひとつだけ加えることがあるとするなら、生き方で話し方は決まるということでしょうか。
「生き方で話し方は決まる」とまでくると、話す力をテクニックや訓練で強めるには限界があるということになる。
話し方をコーチする筆者の立場としては、技術では変えられないことがあることに触れるのは、本来なら微妙な面があるのではないだろうか。
だが、話し方の達人たちを観察し続けてきた筆者としては、それが偽りのない本音なのに違いなく、きっとそれが正しいのだろう。
生き方そのものを変えるのは勿論だが、思考方法を変えるのも、けっして簡単ではない。
だが、自分自身の話し方で、自分の言葉が相手にどう伝わるだろうかと、考えることはできる。
自分の説明のしかた、話し方が聞き手にとって伝わりやすいものなのか。
それを見直してみるきっかけとして、参考になる一冊だった。
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