ある平日の朝です。
C駅発、D社行きのバスを運転しました。
C駅は、中心市街地から外れた、小さな駅。
D社は、山の麓に広大な敷地を持つ、大手企業です。
このバスは、ほぼ、C駅からD社まで、社員さんを運ぶための便で、朝の一便しかありません。
この日も、C駅から5〜6名の社員さんを乗せると、途中で乗降する方はいないまま、バスは進んでいきました。
広い通りを右折し、細い街道筋に入って間もなくのことです。
車道左側の路側帯を歩く、女性の後ろ姿が目に入りました。
黒っぽい髪を後ろで束ね、肩からカバンを下げ、白っぽい服とスカート…。
とても、朝の散歩をしている人には見えません。
(バスに乗って、出勤する人じゃなかろうか?)
そんな気がしたものの、バス停を目前にしても、彼女はバスを振り返るでもなく、急ぐでもなく、普通の足取りで歩いています。
つまり、
“バスに乗りたい!”
という素振りが、まったく見られなかったのです。
バス停までは、まだ10mほど距離がありました。
そのバス停の発車時刻も、既に過ぎています。
そのまま追い越して、走り去るしかないか、と思ったその時…。
カバンにパスケースがぶら下がっているのが目に入りました👀
恐らく、定期券か、交通系ICカードでしょう。
(やっぱり、バスに乗る人に違いない!)
彼女がバスに気付くよう、
速度を落とし、徐行しながら、しばし並走しました。
ハッとした表情でバスに気付いた彼女は、
慌てて、小さく手を挙げました。
バス停より手前でしたが、バスを停車させ、無事に乗せることができました。
やがて、終点D社に到着し、社員のお客さんは次々に降車していきました。
先程の彼女は、他のお客さんが皆、降りるのを待っていたのでしょう。
最後の客となり、前扉に向かって歩いて来ると、
「気付いてくれて、ありがとうございました」
と私に声をかけて降りて行かれました。
運転士として、当たり前のことをしただけではありますが、我ながら、
“これは、ファインプレーでしょ!”
と思えることが、時々あります。
そんなファインプレーに気付いているのかいないのか、
無反応に降りていくお客さんもあれば、
この方のように、わざわざお礼を言ってくださるお客さんもあります。
この日は、そんな自画自賛のファインプレーにお礼を言ってもらえて、
うれしい気分で仕事をスタートすることができました。
「気付いてくれて、ありがとうございました」
は、まさに、こちらの台詞でもあったのです!
ちなみに、このお客さん。
降車時、首から下げていた社員証の名前が目に入り、
教員時代、かつての出向先(市役所)で一緒に勤めた、元同僚であることに気付きました。
思わず、こちらから声をかけ、30年近くぶりに言葉を交わすことができました。
今は、D社の関連会社に勤めているのだそうです。
もし、彼女が最後のお客さんでなかったら、
気付くことも、声をかけることも、きっとできなかったことでしょう。
私のファインプレーと(自己満足!)
彼女の礼儀と思いやりがもたらした、
ほっこり日記の1ページでした。