ある平日の朝です。

C駅発、D社行きのバスを運転しました。


C駅は、中心市街地から外れた、小さな駅。

D社は、山の麓に広大な敷地を持つ、大手企業です。


このバスは、ほぼ、C駅からD社まで、社員さんを運ぶための便で、朝の一便しかありません。



この日も、C駅から56名の社員さんを乗せると、途中で乗降する方はいないまま、バスは進んでいきました。




広い通りを右折し、細い街道筋に入って間もなくのことです。


車道左側の路側帯を歩く、女性の後ろ姿が目に入りました。


黒っぽい髪を後ろで束ね、肩からカバンを下げ、白っぽい服とスカート…。


とても、朝の散歩をしている人には見えません。


(バスに乗って、出勤する人じゃなかろうか?)


そんな気がしたものの、バス停を目前にしても、彼女はバスを振り返るでもなく、急ぐでもなく、普通の足取りで歩いています。


つまり、

バスに乗りたい!

という素振りが、まったく見られなかったのです。



バス停までは、まだ10mほど距離がありました。


そのバス停の発車時刻も、既に過ぎています。


そのまま追い越して、走り去るしかないか、と思ったその時…。


カバンにパスケースがぶら下がっているのが目に入りました👀

恐らく、定期券か、交通系ICカードでしょう。


(やっぱり、バスに乗る人に違いない!)


彼女がバスに気付くよう、

速度を落とし、徐行しながら、しばし並走しました。


ハッとした表情でバスに気付いた彼女は、

慌てて、小さく手を挙げました。


バス停より手前でしたが、バスを停車させ、無事に乗せることができました。




やがて、終点D社に到着し、社員のお客さんは次々に降車していきました。


先程の彼女は、他のお客さんが皆、降りるのを待っていたのでしょう。


最後の客となり、前扉に向かって歩いて来ると、


「気付いてくれて、ありがとうございました」


と私に声をかけて降りて行かれました。



運転士として、当たり前のことをしただけではありますが、我ながら、


 “これは、ファインプレーでしょ!” 


と思えることが、時々あります。


そんなファインプレーに気付いているのかいないのか、

無反応に降りていくお客さんもあれば、

この方のように、わざわざお礼を言ってくださるお客さんもあります。


この日は、そんな自画自賛のファインプレーにお礼を言ってもらえて、

うれしい気分で仕事をスタートすることができました。


「気付いてくれて、ありがとうございました」


は、まさに、こちらの台詞でもあったのです!




ちなみに、このお客さん。


降車時、首から下げていた社員証の名前が目に入り、

教員時代、かつての出向先(市役所)で一緒に勤めた、元同僚であることに気付きました。


思わず、こちらから声をかけ、30年近くぶりに言葉を交わすことができました。

今は、D社の関連会社に勤めているのだそうです。


もし、彼女が最後のお客さんでなかったら、

気付くことも、声をかけることも、きっとできなかったことでしょう。


私のファインプレーと(自己満足!)

彼女の礼儀と思いやりがもたらした、

ほっこり日記のページでした。