「ゆっちゃん、私好きな人がいるの」

誰なのかと聞き返す必要も無い。周りの者から見ても周知の事実である。

「仕方無いよ、人の心は変わるものだから、どちらかが悪いとか考えないでさ、お互いの幸せを願おうよ、俺達ただ合わなかっただけだよ」

口ではそう言ったものの、思考が容易に付いてくる筈も無かった。これからもカジカで顔を合わせなきゃならない。僕はトイレで1人嗚咽を漏らして泣いた。

 
 そんな日々が3ヶ月程過ぎた。僕の陽葵に対する気持ちは忘れるどころか憎しみに変わっていった。勿論幸せを願うがその相手は僕以外は許せないという矛盾。木崎さんと幸せそうにしている陽葵を見ているだけで気が狂いそうだった。

やがて僕は自分に嘘を付き始めた。陽葵が教えてくれた嘘で僕は陽葵を塗り潰した。

無視だ。陽葵はこの世界には存在しないんだと思い込む事で僕は自分を保った。現実から消したいくらい僕は陽葵を愛していた。現実から陽葵を消して、頭の中では擦り切れるくらい陽葵を思い出し、マスターベーションにふけこんだ。