動揺が胃から胸を伝って頭の中を完全に支配した。どうにか震える声を隠そうと声のトーンを上げた。
 
「そうなんだ、寄りを戻したんだ、実はそれを言いたかったんだよ」

「わざわざ報告する為に電話したのか?まあ良かったじゃないか」

「ついつい誰かに言いたくなって電話しちゃったよ、悪かったな仕事中に」

「今度またゆっくり話聞かせてもらうよ、また飲もうぜ」

「ああ、それじゃあ」

マスは何の疑いも無い様子で電話を切った。


僕が陽葵と呼んでいる人物が、祇園であるという事実を認めたくは無いが、一度呑み込むとして、しかし姿形に至る記憶まで書き換える事など本当に可能なのだろうか、名前をただ書き換えられているだけなんじゃないだろうかと予測してみたが、そんな事は信じたくなかった、陽葵が僕にあんな事をするなんて絶対信じたくない。

僕の愛した木下陽葵がこの世の何処かにいる筈なのだ。僕は電車の時間を確認して家を出た。現段階では未だこの状況において納得する事ができなかった。タクシーに乗り込み、運転手に行き先を逗子駅と伝えると、携帯電話から知念草さんに電話をした。