イタリアからの風―ゴッドファーザーⅡ― | 無縁(むえん)の縁(ふち)から

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老いた母と暮らす夫なし・子なしのフリーランスライター。「真っ当なアウトサイダー」は年を重ねる毎に生きづらくなるばかり。自身の避難所(アジール)になるよう、日々のつぶやきを掲載します。とはいえ、基本「サザエさん」なので面白おかしく綴ります。たまに毒舌あり。

映画『ゴッドファーザー』は、パート1、パート2、パート3と全3部作になっている。パート3をまだ見直していないので何とも言えないが、どの作品が素晴らしいかと言われると、人それぞれの趣味嗜好の問題になってくるのだろう。一般的にはパート1の評価が高いが、個人的には「はい、そうですね」と素直にうなずけない。それは一重に、パート2で若き日のドン・コルレオーネを演じるロバート・デ・ニーロがあまりに素晴らしいからだ。

 

パート2は、コルレオーネ・ファミリーを継承した、アル・パチーノ演じるマイケルのその後の物語と、若かりし日のヴィート・コルレオーネ(ヴィトーと書いてある資料が多いが、イタリア式にヴィートと読みたい)が移民としてアメリカへ渡り、頭角を現していく様子を交互に描いている。

父と息子の物語がカットバックで交互に織りなす最後のシークエンスは、映画史に残る数分間だと思う。

 

さて、ロバート・デ・ニーロである。ロバート・デ・ニーロの父はイタリア系およびアイルランド系、母はイングランド・ドイツ・フランス・オランダの血を引いている。

パート2が公開されたのが1974年で、公開当時はまだまだ私が子供だったこともあり、もちろんリアルタイムでは観ていない。彼の代表作である「ディア・ハンター」「アンタッチャブル」や「レイジング・ブル」もその後、名画座で観たのか、ビデオを借りて観たような記憶がある。

ロバート・デ・ニーロは圧倒的に「男性受け」する俳優で、男子から「とにかくデ・ニーロはすごい」と聞いてはいたが、女子的には正直何がそんなにいいのかよくわからなかった。

 

ところが今回、『ゴッドファーザーⅡ』を観てみたら、本当に、とにかくすごい。公開当時31歳のデ・ニーロは、キレッキレのハンサムで、特に横顔の美しさにほれぼれする。

すらりとした体躯にこけた頬、静かで落ち着いているが、目の輝きは只者ではないことを物語っている。

 

マーロン・ブランドのしゃがれ声をほぼ完ぺきに模倣した、シチリア訛りのイタリア語をシチリアへ行ってマスターしたなど、役柄に徹底的になりきる「デ・ニーロ アプローチ」、いわゆるデ・ニーロ伝説は、『ゴッドファーザーⅡ』から始まったと言われているが、私が一番驚いたのは、デ・ニーロの仕草~身体の動き、手の動き~だ。

 

イタリア人、とりわけシチリア人は、会話をするときに手をよく動かす。この手の動きはジェスト(gesto)=英語で言うところのジェスチャーで、この手の動きだけで様々な意味を伝え合うことが出来る。

シチリアでしか通じない、使わないgestoもあって、この手振りを使ってよそ者にはわからないようにコミュニケーションを取っていた、とも聞いたことがある。

 

デ・ニーロはシチリアへ行ったときに、多分シチリア人が話すときの様子を鋭く観察をしていたのだろう。他の役者も、イタリア人を演じるということで、大きく手を動かして演技をしているのだが、デ・ニーロの動きだけは違う。あの動きは、シチリアの人そのものだ。これには唸ってしまった。

 

動きにはそれぞれ意味がある。デ・ニーロは、ちゃんとその動きをしかるべき時に、しかるべき台詞と共に使っている。例えば、「何を言いたいんだ?~che vuoi dire?~」と言ったニュアンスのときに使われる手振りとして、手の平を上に向けて、指を軽くつぼめて軽く振る

という動作があるのだが、デ・ニーロはパーフェクトにこの手振りを使っていた。

こうした手の動きや台詞、目線の飛ばし方、首の傾げ方、肩のすくめ方…。どれをとっても、後にドン・コルレオーネとなるシチリア移民の若者がそこにいるとしか思えない。

ロバート・デ・ニーロが街を歩けば、そこが1900年代初頭のニューヨーク・リトル・イタリーになる。そんな感じ。すごい俳優だとは知ってはいたが、『ゴッドファーザー2』を見直すまで、その凄さの半分も理解していなかった。

 

デ・ニーロだけを追いかけて、何度も何度も観たくなる。彼の一挙手一投足に惹き込まれて目が離せなくなる感じ。マイケルの話も、それはそれで素晴らしい出来なのだが、(次男のフレドを演じるジョン・カザールが秀逸で泣ける)、デ・ニーロがあまりに凄すぎて、誰を、何を、どう持ってきてもかすんでしまう、そんな感じだ。

 

デ・ニーロ演じるヴィートはオリーブオイルの貿易会社を立ち上げ、家族を連れて故郷・シチリアへ里帰りする。

ヴィートがクルマから降りるとき、トマシーノと挨拶を交わすシーン。彼等は男同士でハグをして両頬にDue baci(2つのキス)を交わす。これも南イタリアの習慣らしく、中部~北イタリアでは男性同士でDue baciを交わすことはあまりない。

 

地元の人たちとテーブルを囲んで食事をするシーンがある。テーブルの上には、シチリアのお菓子、カンノーリが見受けられる。そして、白い紙にブルーのリボンがかかったプレゼントが置いてある。シチリアに住んでいるときに、よく見かけた包みと同じだ。一人ひとりにお土産を渡すところが、立身出世したシチリア人がいかにもやりそうなことで、なぜかこのシーンで泣きそうになった。

 

ヴィートの家族が里帰りしたコルレオーネ村のロケ地は、実際のコルレオーネ村ではない。モッタ・カマストラ村、フィウメフレッド、サヴォカというシチリア西部、タオルミーナ近郊の村だ。

 

本当のコルレオーネ村は、パレルモから内陸へ車で1時間ほど走ったところにある。

ごくごく地味な小さな街だが、街はずれにはマフィアの大ボス、トト・リーナが住んでいた家がある。

(Photo:実際のコルレオーネ村)

(Photo:実際のコルレオーネ村)