人形歴史スペクタクル平家物語 第一部青雲 第一話 我が父は誰ぞ | 俺の命はウルトラ・アイ

人形歴史スペクタクル平家物語 第一部青雲 第一話 我が父は誰ぞ

『人形歴史スペクタクル 平家物語』
第一部 青雲
第一話 我が父は誰ぞ

テレビドラマ トーキー 20分 カラー
平成五年(1993年)十二月十日放送
放送局 NHK総合
 
原作 吉川英治『新・平家物語』
脚本 小川英
   胡桃哲
音楽 桑原研郎
人形美術 川本喜八郎
 
声の出演
 
風間杜夫(平清盛)
 
石橋蓮司(遠藤盛遠)
 
森本レオ(源渡)
 
寺泉憲
辻村真人(平家貞)
花房徹(朱鼻)
浅香亨
鈴木琢磨
 
松山政路
三谷昇(平忠盛)
 
二木てるみ
倉野章子
 
紺野美沙子(袈裟御前)
 
人形操演
伊東万里子
小松市子
村松茂宏
船塚博子
おかの公夫
塚越寿美子
杉浦春江
大畑田鶴子
梶野由紀子
山崎昭見
石渉恵
大崎たか子
川口英子
佐々木美和子
山下千代
飯田静男
内山澄子
三喜秀一
馬場弘
内森泰彦
岡崎明保
 
人形衣裳
佐藤三郎
 
人形製作スタッフ
野月静夫
穂坂かほる
大向とき子
内藤揚子
黒図百合子
河村矩子
大沢治
落合恵美子
長川憲司
逸見良子
石塚房枝
 
ナレーション 黒田あゆみ
 
エンドテーマ「VOICE」
作詞/作曲/歌 尾崎亜美
 
製作統括 中村哲志
     西亀泰
美術   山下恒彦
タイトル製作 富田勉
小道具   斎藤堅
技術    高橋邦彦
照明    川口栄紀
音声    湯浅幸人
映像加工  石茂雄
記録編集  塩井よしこ
 
演出    花房實
 
製作協力  NHKエンタープライズ
   
寺泉憲=寺泉哲章
 
松山政路=松山省二
 
黒田あゆみ→渡邊あゆみ
◎  
 
 

    「祇園精舎の鐘の声

     諸行無常の響あり

     沙羅双樹の花の色

     盛者必衰の理をあらはす

     おごれる人も久しからず

     ただ春の夜の夢のごとし」

 
 平清盛は弓の稽古に取り組んでいる。
家臣木工助平家貞は平家の頭領を継ぐ
若様清盛を見守る。父平忠盛は海賊討伐
を成し遂げた実力者の武士だが、公卿た
ちからは蔑視されている。
 
 若武者平太清盛は武士の天下を具現し
たいという野望にも燃えている。
 
 母泰子は白河法皇の想い人であった過去
から武士である夫忠盛に厳しい態度を示す。
帝から招かれているのに良い着物がないと
忠盛を責める。清盛は家計のことから父上
を責めないで欲しいと母に頼む。
 
 
 友藤盛遠は白拍子たちと遊びうさを晴ら
せと清盛に勧める。自身の実父は白河法皇
かもしれないという噂を盛遠から聞かされ
た清盛は煩悶する。
 
 家貞は清盛に尋ねられても何とも言えな
い。
 
 商人朱鼻は青年清盛に近付き、その燃え
る野心と覇気に注目する。
 袈裟御前は武士源渡の妻だ。
 
 盛遠は袈裟御前に激しい横恋慕を抱いて
いる。
 
 袈裟御前は盛遠に恋心を告白された。
 
 盛遠は「袈裟殿が渡殿の妻であることは分
かっている」として「どうしてもそなたが諦
められん」と恋心を告白する。
 
 
 袈裟は盛遠の片想いが激しく強い
ことを感じた。
 
 盛遠は袈裟から恋の承諾をもらい
狂喜する。なんと夫渡を刺殺して欲
しいと袈裟から頼まれた。
 
 夜に源渡の屋敷に侵入した盛遠は
恋敵の寝所に忍び寄って思い切って
刺殺する。
 
 だが寝ていたのは袈裟であった。
 
 夫への愛を貫く為に命を捨てて盛
遠の刃にかかり死んだ。
 
 事件を聞いた二十歳の清盛は友盛
遠の軽挙妄動を悲しむ。
 
 ◎青春苦闘◎
 
 
 平清盛は永久六年一月十八日(ユリウス暦
1118年2月10日、先発グレゴリオ暦1118年
2月17日)に誕生した。
 治承五年閏二月四日(ユリウス暦1181年
3月20日、グレゴリオ暦1181年3月27日)に
死去した。
 

 吉川英治は明治二十五年(1892年)八月十一

日神奈川県に誕生した。本名は吉川英次(よしか

わ・ひでつぐ)である。作家として日本文学史

において活躍した。時代小説の巨星である。大

正十五年後に昭和元年(1926年)十二月に『剣

難女難』を発表した。

 

 

 『新・平家物語』は昭和二十五年(1950年)

より昭和三十二年(1957)まで七年間『週刊

朝日』において連載小説として執筆した大作で

ある。

 

 平清盛・木曾義仲・源義経の三人を中心に

して源平争乱時代を壮大なスケールで描いた

歴史小説である。

 

 医師阿部麻鳥が狂言回しとして登場する。

青年時代から老年時代を歩む麻鳥と妻蓬子

は源平の英雄男子とその関係者の女性たち

に出会う。 

 老年期を迎えた夫婦は吉野雛を見つめて

平和の尊さを実感する。

 吉川英治自身が小説の後書きで麻鳥に自身

を投影したことを記している。

 

 『新・平家物語』は大映で三部作映画が

製作され、NHK大河ドラマで一本製作され

た。

 

新・平家物語 市川雷蔵主演 溝口健二監督作品

 溝口健二が「ちげぐさの巻」を映像化

した昭和三十年映画版は平成十一年(1999年)

十一月二十四日朝日シネマ1・平成十八年(20

06年)六月十五日京都文化博物館で鑑賞した。

 

 義仲篇の『新・平家物語 義仲をめぐる五人

の女』と義経篇『新・平家物語 静と義経』の

二映画は未見である。

 

新・平家物語 総集編 上ノ巻 下ノ巻 脚本平岩弓枝

 昭和四十七年(1972年)に大河ドラマ版を製
作・放送したNHKは平成五年(1993年)に人形
劇でセルフリメイクを開始した。
 
 前述の通り平成五年(1993年)十二月十日に
「第一部 青雲」の第一話「我が父は誰ぞ」が
放送された。
 第二部「栄華」・第三部「乱」・第四部「流
転」・第五部「無常」が一部に続いた。
 平成七年(1995年)一月二十六日「無常」
最終第八話「諸行無常」が放送された。
 
 清盛青春時代から麻鳥・蓬子夫妻の吉野雛
会話まで。
 割愛カットされた部分もあるとはいえ、小説
『新・平家物語』のほぼ全体が人形劇で映像化
された。この偉業一つを見ても『人形歴史スペ
クタクル 平家物語』は不滅の輝きを放ってい
る。
 
 小川英の緻密な脚本、花房實の重厚な演出
は光っている。
 
 川本喜八郎の人形は生き生きと命を生きて
いる。
 
 第一部第一話は青年清盛が熱い野望を胸に
燃やしつつ出生の問題で苦悩する。
 
 風間壮夫が青年清盛の悩みを熱く語る。
 
 紺野美沙子が人妻袈裟の自己犠牲を繊細に
語った。
 
 石橋蓮司が横恋慕から見境なく凶行を
犯してしまい、最愛の人を斬ってしまう
盛遠の悲しみを探求する。
 
 大詰の石橋蓮司の声に、デズデモーナ
を絞殺してしまったオセローを想起した。
 
 三谷昇が妻の高圧的な態度に従ってしま
う忠盛を鮮やかに表した。
 
 原作文学に忠実に映像化するという難題
に挑戦し見事に具現した花房實チームに拍手
を送りたい。
 
 恐らくは映画でも舞台でも無理と思われる
『新・平家物語』ほぼ全体の映像化を全話傑作
で映像化した『人形歴史スペクタクル 平家
物語』はテレビシリーズが長篇文学映像化に
応答することを示している。
 
 拙ブログで原作文学を破壊改竄歪曲して居
直っている“演出家“の「演出」名義の詐欺に
怒りを述べているが、「文学に対して映像ス
タッフ・演劇スタッフはどう取り組めばよい
のか」という問いについては『人形歴史スペ
クタクル平家物語』スタッフに学べばよいと
いうことである。
 
 「原作」として文学を掲げるならば、文学
に忠実に脚色し劇化映像化することはスタッフ
の使命である。忠実に劇化・映像化する学力・
表現力・初歩読書力が無いならば、上演・映
像化は控えるべきである。
 
 
 平成五年十二月十日、清盛人形を見た瞬間、
「川本喜八郎先生は『新・平家物語』を熟読
されてるなあ」と実感したことをよく覚えて
いる。
 
 「原作に忠実であること」は文学に「従順」
であることではない。熟読研究するスタッフは
偉大な原作文学に弾き飛ばされている。その
苦闘を通して忠実に学ぶことが成り立っていく。
 「原作と同じ物」が舞台上演・スクリーン映
写・テレビ画像映写される訳でもない。
 
 原作文学と読者の関係は『西遊記』における
如来と孫悟空に学べる。如来の手から脱出するこ
とを挑戦しなきゃ孫悟空になり得ない。「手から
出たぞ」と思い込んだ時に如来の手の中に在る自己
を痛感する。
 
 原作に学ぶことで産まれた命が舞台・スクリ
ーン・テレビ画面に輝き、観客・視聴者に不滅
の存在感を伝えているのである。
 
 
 現在第三部「乱」が二話放送で月曜日二十二
時五十分に「大人の人形劇」としてNHKEテレ
で再放送されている。
 
 記念すべき第一回は青年清盛の苦悩と盛遠
の凶行が描かれるが、天下人・僧侶となって
対照的な歩みを為す友人二人の交流が描かれて
いることに注目したい。
 
 清盛は驕れる天下人となり、文覚に改名し
盛遠は罪を通して世の救いを模索する。
 
 二人の友義と対立も諸行無常の主題と深く
関わっている。
 
 
              南無阿弥陀仏