博奕打ち いのち札 | 俺の命はウルトラ・アイ

博奕打ち いのち札

『博奕打ち いのち札』

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映画 トーキー 106分 カラー

昭和四十六年(1971年)二月十三日公開

製作国 日本

製作言語 日本語

製作   東映京都

 

企画  俊藤浩滋

    橋本慶一

 

 

脚本  笠原和夫

音楽  木下忠司

 

撮影   吉田貞次

美術   吉村晟

録音   堀陽一郎

照明   和多田弘

編集   宮本信太郎

助監督  清水彰

スチール 諸角義雄

進行主任 武久芳三

 

 

 

出演者 

 

 

鶴田浩二(相川清次郎)

 

安田道代(静江 中村静香 劇中劇の森の石松)

 

渡瀬恒彦(フーテンの猛)

水島道太郎(岩井東五郎)

 

河村有紀(寿々女)

時美沙(恵美)

正司照江(お米)

 

天本英世(金原)

八名信夫(猪子鉄治)

林彰太郎(床屋の秀)

野口貴史(鮫州の政)

阿波地大輔(竹内)

有川正治(石浜)

川谷拓三(野原)

明石潮(中村権之助)

内田朝雄(大竹重吉)

 

小島恵子(美佐子)

堀正夫(田中菊次郎)

疋田泰盛(秋山兼蔵)

市川裕二(小峰甚吉)

波多野博(男役者A)

森紘太郎(男役者B)

山下義明(芝居小屋の番頭)

中村錦司(木元)

 

志摩靖彦(前田)

鈴木金哉(村井)

那須伸太朗(矢島)

国一太郎(谷口)

前川良三(小屋の客A)

村田玉郎(小屋の客B)

小田真士(刑事)

浅松美紀子(事務員)

畑中伶一(車掌)

毛利清二(賭場の胴師)

島田秀雄(愚連隊A)

高並功(刑事)

藤原勝(巡査)

 

 

遠藤辰雄(お祭り徳)

天津敏(天野良平)

 

 

若山富三郎(小林勘次)

 

監督  山下耕作

 

 

安田道代→大楠道代

 

野口泉→野口貴史

 

鈴木金哉→鈴木康弘

 

遠藤辰雄→遠藤太津朗

 

奥村勝=若山富三郎→城健三朗

   →若山富三郎

 

鑑賞日時 場所

平成十二年(2000年)三月二十三日

日劇会館

 

画像出典

『破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲』

(平成九年十月二十五日発行

 幻冬舎アウトロー文庫)

 関東桜田一家岩井組の親子縁組では

組の掟が親分から乾分に厳しく告げら

れる。岩井東五郎親に忠誠を尽くす事

が盃を貰った乾分衆の課題である。

 

 昭和初期越後直江津。

 

 旅芸人中村静香主演『森の石松』「閻魔

堂の場」が朝日座で上演され客席から掛け

声がかかる。美人役者静香の男役石松は大

人気だ。

 恋人の相川清次郎は客席でじっと見つめ

る。彼は岩井の乾分で若者頭の地位にある。

静香の朋輩寿々女は清次郎の差し入れの寿

司を静香に見せる。

 

 静香は大好きな海を愛しい清次郎と共に

見つめる。

 

 清次郎はやくざの勤めの為に愛しい静香に

一年待って欲しいと頼み東京に行く。岩井一

家の縄張りを荒す天野良平を糾弾し彼と戦い

負傷させて懲役五年の刑を受ける。刑務所から

静香に「俺の事は忘れてくれ」と手紙を送っ

た。

 

 静香の舞台を熱心に見る男性客は彼女に

本気で惚れる。

 

 東五郎親分は刑務所面会で清次郎に若い恋

人が出来て入籍するかどうか相談したいと述

べる。清次郎は親分の腹一つですよと祝福す

る。

 旅芸人中村静香という女で今静江と名乗って

るんだと喜々として語る東五郎の言葉に清次郎

は悲しみを堪える。

 

 東五郎と静江は結婚し代貸小林勘次や桜田一

家二代目総長大竹重吉が祝福する。

 

 清次郎の家は大阪から来たお祭り徳・お米

夫婦が守っている。

 

 岩井から清次郎出所が近いと聞き徳は喜ぶ。

仲間の猛は祝杯を共に挙げつつ、街娼婦らしい

美人恵美を励ましおでんを驕る。新池会の猪子

が俺の女だと猛を威圧し対立が深まる。猛が

猪子を負傷させ、勘次は激怒する。岩井は新

池会に出向き猪子の親分天野に詫びを入れる。

 天野は金を返しつつ「新池会の顔を立てて」

と望み、勘次は「図に乗るんじゃねえ」と注意

する。

 

 勘次は天野の背後に誰かいますと警告し東五

郎は黒幕が誰か分かるまで用心するんだと確認

する。

 

 父と慕った中村権之助の墓参りの後静江は

寿々女と再会しチンピラのような男金原と交際

する苦しみを聞く。静江は自身の直江津の恋を

黙っていて欲しいと口止め料を払う。

 

 料亭で東五郎は清次郎が出所したら後を継が

せたいと静江に語る。金原が乱入し東五郎を狙撃

し逃げる。断末魔の東五郎は静江に清次郎との

仲を問い、俺の死後は好きなようにして、清次郎

には馬鹿な親だったと伝えてくれと言い残して

息絶える。

 

 出所した清次郎は勘次の苦労を労い、静江に

姐さんと挨拶する。東五郎が埋め立て工事に意

欲を燃やしていたことを静江は伝える。

 

 二人になり静江は清次郎に許しを乞う。済んだ

事ですと清次郎は語る。「馬鹿な親だった」とい

東五郎の言葉を聞き清次郎は驚く。

 

 桜田一家の会合で大竹は埋め立て工事は一家

で肩代わりしてやろうと提案し清次郎が拒否し

「岩井に大黒柱」がありますと明言する。下手

を売らねえ自信があるのかという大竹の問いに

清次郎は姐さんを立てて岩井はしのいで行きま

すと宣言する。静江は吃驚する。大竹は不快感

を露わにする。

 

 静江は置手紙を残して直江津の海に行く。

 

 清次郎が追いかけてきた。

 

 

 

  清次郎「あねさん・・・・・・

      東京へ帰って下さい」


 

  静江「いや、

     それだけはいや・・・・・・!」


 

  清次郎「あねさん!」

 

  静江「いや、・・・・・・あなたに、

     一生そんな呼ばれ方される

     なんて・・・・・・・!」


 

  清次郎「聞いておくんなさい、桜田一家

      はいつ反目に回るか分からねえ

      んです、俺たちが岩井の代紋を

      押し立ててゆく為のたった一つの

      名分は、今はあねさんしかねえ

      んです」


 

  静江「帰りたくない、

     帰りたくない・・・・・・

     あたしはただの女なのよ・・・・・・

     ただの女にして下さい・・・・・!」

 

 

  清次郎「俺には岩井の家しかねえ、

      聞いてくれね

      えんですか、

      あねさん、聞いちゃくれねえ

      んですか、聞けなきゃ・・・・・

      だったら、ここで死んでくれッ」


 

  静江「(茫然と)・・・・・・!」

 

 清さんの言うような女になろますと静江

は約束する。

 

 この光景を金原が観る。

 

 新池会の妨害を清次郎は堪えつつ荒らし

に来た天野の子分を捕える。

 

 金原から情報を聞いた天野は静江を脅す。

静江は天野の要求通り彼の子分を解き放つ。

 

 勘次は清次郎に姐さんへの未練を断って

いるなら一家の勤めを託さず出て貰える筈

で今も惚れてるのかと問う。「分かってく

れねえなら俺を刺せ」と清次郎は宣言する。

 

 猛が恵美を守り新池会と争う。二人を守る

清次郎は天野との戦いを決意するが静江が

諫める。大竹は岩井の跡目に勘次を指名し

た。清次郎は猛・恵美を逃がして天野に謝

罪する。

 

 勘次に恵比寿講の盆を天野と共同にせよ

と大竹は圧力をかける。

 静江から東五郎暗殺者が金原である事を

聞いた勘次は黒幕が大竹だと察知する。

 

 天野は強請に来る金原に金を渡す。勘次

は二人に斬りこみ金原を刺殺するが天野に

撃たれる。

 

 清次郎は知らせを聞き勘次を介抱する。

 

 勘次は黒幕は大竹であることを清次郎に

知らせ息絶える。

 

  「俺一人が岩井一家のいのち札を

   死に目に張っちまったんだ」

 

 深く哀しむ清次郎は天野・大竹との戦を

決める。

 

 ◎愛・盃・血◎

 

 

 笠原和夫は昭和二年(1927年)五月八日東

京府に誕生した。

 平成十四年(2002年)十二月十二日七十六

歳で死去した。

 

  わたしは四苦八苦した末に『トリスタン

  とイゾルテ』を下敷きにしたプロットを

  作ったのだが、極端に凝縮され、様式化

  されたドラマの中で幅を利かす観念、そ

  れに芝居そのもの、言葉などが、意味の

  葉脈を失って現実という枠からバラバラ

  剥落し、遊離していく無力感に、毎日茫然

  としていた。

  (『破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲』

    222頁)
 

 巨星笠原和夫のシナリオは完璧と自分は

感嘆した。だが笠原和夫当人は無力感を覚

えていた。

 

 

 山下耕作は昭和五年(1930年)一月十日

に鹿児島県に誕生した。愛称は将軍である。

平成十年(1998年)十二月六日に六十八歳

で死去した。

 

 

 将軍は「三島さんの死に応えるのは、居直り

しかないよ」(『破滅の美学 ヤクザ映画への

鎮魂曲』224頁)と語ったという。

 

 

博奕打ち 総長賭博 (十九)忍の人

 

 『博奕打ち 総長賭博』を『映画藝術』批評

で讃えた三島由紀夫は昭和四十五年(1970年)

十一月二十五日切腹自殺を遂げた。笠原和夫と

山下耕作にとって三島由紀夫追悼企画でもあった

作品が『博奕打ち いのち札』である。

 

 やくざの清次郎と旅役者の静香後に静江

は愛し合っていたが、様々な縁のもよおし

によって、子分と姐さんになり共に岩井

一家を守る事となる。復縁が難しい関係で

二人の恋は再燃する。

 二人が一緒になれば、様々な問題に直面

しても解決したかもしれない。

 

 だが、東五郎の断末魔の優しく寛大で

誠実な言葉が二人に復縁を思いとどまらせ

る。

 この構成が絶妙である。

 

 清次郎・静江・死者東五郎の三角関係は

三人が深く敬愛しているが故に強固である。

その強固さが悲劇と密接に関わる。

 

 序盤の劇中劇『森の石松』において静香が

石松を勤める事は、静江改名時代の大詰に天

野の襲撃に出逢う出来事と照応しているとも

見れる。

 

 岩井一家に静江を立てて子分が支える道

を清次郎は選ぶ。静江への恋心が断ち切れず

一緒に居る道を選ぶ。これが大詰の悲劇の

因になる。許されない仲でるが故に二人の

内面の愛は一層強く燃える。

 

 亡き東五郎から貰った盃に義理を感じて

岩井一家を支えようと清次郎は奮闘するが

いのち札は死に目に出てしまう。

 

 クライマックスの悲惨さと残酷さは任侠路線

の歴史においても珍しいのではないか?

 

 鶴田浩二(つるた・こうじ)は大正十三年

十二月六日兵庫県西宮市に誕生した。本名は

小野榮一である。日本映画・歌謡界の歴史を  

代表する大スタアである。

 昭和六十二年(1987年)六月十六日東京

都において六十二歳で死去した。

 清次郎役の鬼気迫る熱演に震えた。

 

 安田道代は昭和二十一年(1947年)二月二

十七日中華民国天津市に誕生した。

 昭和三十九年(1964年)スカウトされて日

活でデビューを飾り後に大映でスタアになり、

城健三朗後に若山富三郎と恋におちたと言われ

ている。昭和五十一年(1976年)大楠裕二と

結婚し芸名も大楠道代に改めた。

 静江役の色気と妖艶さと清らかさは輝いて

いる。

 

 渡瀬恒彦は少年のようなみずみずしさを猛

で魅せる。

 

 水島道太郎は東五郎の情をたっぷり魅せる。

 

 若山富三郎は昭和四年(1929年)九月一日

東京府に誕生した。本名は奥村勝である。別名

義は城健三朗である。平成四年(1992年)四月

二日六十三歳で死去した。

 

 勘次役の凄みは圧巻である。

 

 安田道代と若山富三郎は実生活で恋愛関係に

在ったと言われているが、その事が本作の緊張

感と関わっている事は間違いないだろう。

 

 河村有紀がファムファタール寿々女の魅力を

たっぷりと見せる。

 

 時美沙の可憐さは光っている。

 

 遠藤辰雄・正司照江は徳・お米の大阪夫婦の

逞しさを表す。

 

 金原役の天本英世の不気味さ、大竹役の内

田朝雄の重量感、天津敏の天野の憎たらしさ

は藝術である。

 

 笠原和夫の精緻な脚本と山下耕作の深い演出

により、『博奕打ち いのち札』は東映任侠路

線の歴史を代表する永遠不滅の大傑作となった。

 

 切なさを極めた名画である。

 

 ラストの血の池に息を呑む。

 

 鶴田浩二と安田道代は障壁に挑む恋人達の

愛の熱さを銀幕に燃やした。

 

 

                  合掌