博奕打ち 総長賭博 (十九)忍の人 | 俺の命はウルトラ・アイ

博奕打ち 総長賭博 (十九)忍の人

『博奕打ち 総長賭博』

 

映画 トーキー 93分 カラー

昭和四十三年(1968年)一月十四日公開

製作国  日本

製作    東映京都

 

企画  俊藤浩滋

     橋本慶一

 

脚本  笠原和夫

 

音楽  津島利章

撮影  山岸長福

照明  井上孝二

調音  野津裕男

美術  富田次郎

編集  宮本信太郎

 

助監督 本田達男

記録 史部はつ子

装置  米沢勝

装飾  渡辺源三

 

美粧  佐々木義一

結髪  妹尾茂子

衣裳  高安孝次

擬斗  谷明憲

進行主任 並河正人

 

 

出演者 

 

 

鶴田浩二(中井信次郎)

 

 

藤純子(松田弘江)

桜町弘子(中井つや子)

 

名和宏(石戸孝平)

曽根晴美(水谷岩吉)

佐々木孝丸(河島義介)

三上真一郎(小林音吉)

 

沼田曜一(野口進)

香川良介(荒川政吉)

中村錦司(青木勇作)

 

服部三千代(久美)

小田部通麿(北川常次)

原健策(五井常次郎)

小島慶四郎(小西)

 

国一太郎(岩倉宗太郎)

鈴木金哉(健二)

河村満和(若い衆)

野口泉(アキラ)

岡田千代(石戸俊子)

堀正夫(坂上貞蔵)

関根永二郎(竹下清之助)

大木勝(長尾清)

 

那須伸太郎(芝田利助)

疋田圀男

平沢彰(早川兵吉)

高並功(沢田)

西田良(やくざ)

北川俊夫

有島淳平

香川秀人(松田実)

藤川弘

熊谷武

 

 

若山富三郎(松田鉄男)

金子信雄(仙波多三郎)

曽我廼家明蝶(西尾宇一郎)

 

 

監督  山下耕作

 

藤純子→富司純子

 

桜町弘子=松原千浪

 

曽根晴美=曽根将之

 

佐々木孝丸=落合三郎・香川晋

 

香川良介=香川遼

 

鈴木金哉→鈴木康弘

 

野口泉→野口貴史

 

奥村勝=若山富三郎→城健三朗

   →若山富三郎

 シナリオでは天竜一家だが、本篇の記述では

天龍の表記がある。

 

 荒川政吉が倒れる年代は本編では昭和

十年だが、シナリオでは昭和九年である。

 

西尾宇一郎のファーストネームはシナリオでは

西尾宇市郎となっている。

 

小島慶四郎出演シーンは本編ではカット

されている。

☆☆☆

平成三年(1991年)十一月十三日 朝日シネマにて鑑賞

☆☆☆

画像出典 『博奕打ち 総長賭博』DVD

台詞出典 『博奕打ち 総長賭博』DVD

       『笠原和夫 人とシナリオ』

 ☆

  台詞の引用・シークエンスの考察は、研究・

 学習の為です。 
 東映様にはおかれましては、ご理解・ご寛

恕を賜りますようお願い申し上げます。

 文献からの引用で伏字にせず、原文のまま

「気狂い」の表現を記しますが、これは精神を

病んだ人々を蔑視する意味で使った言葉では

ありません。ご理解を賜りますようお願い申し

上げます。

 感想文では物語の核心・結末について言

及します。

 ☆

   海において岩が波を受け東映マークが映る。

 

 日の丸のアップ。

 

 昭和十年春。

 

 政界の大御所河島義介は天竜一家総長荒川政吉

とその舎弟仙波多三郎を自宅に招き大陸進出の国家

使命を一翼を荷う銃器・弾薬・宝石・麻薬の商法

を為す愛国団体に入って欲しいと誘う。

 荒川は博奕打ちの分を守って渡世をしていく事

を家憲にしていると述べて提案を拒絶するが脳溢

血の発作を起こし倒れる。

 

 入院した荒川を娘俊子とその夫で天竜一家参加

石戸組石戸孝平が看護する。

 中井組組長中井信次郎が入室地枕元により、「親

父さん」と呼びかける。

 

 病の政吉は跡目を決めて欲しいと筆談で示す。仙

波と六人衆と呼ばれる組長衆が会合を開き、二代目

に中井を推挙する。

 

 中井は大阪で西尾宇一郎親分の盃をもらい渡世

に入った身で東京で活動する天竜一家には余所者

であるからお断りしますと固辞した。誰が適任か

と言われ、中井は服役中の義弟の松田鉄男を推薦

するが仙波が反対する。

 

 仙波は石戸を強く推し石戸本人は固辞するが、叔

父貴の意見が全てを押し切った。

 

 仙波から後継問題で出所する松田を説得すること

と二代目の襲名披露を兼ねた花会を盛大に開くこと

を提案された信次郎は承知する。

 

 信次郎の妻つや子が切火を打ちタイトルが表示さ

れる。

 

 料理屋千鳥で信次郎は妹松田弘江とその息子実に

釟男の出所を告げる。

 千鳥で働く久美は中井組に預けらている松田の

乾分小林音吉の恋人である。

 

 中井は預かっていた音吉と長尾清を放したくない

程可愛がっているが松田の出所を知らせ、三人は心

の交流を確かめる。

 

 松田鉄男が出所し信次郎・石戸が出迎える。感動

した松田は義兄弟三人で力を合わせようと喜ぶ。

 病室の荒川に松田は出所を報告する。千鳥では出

所祝いが開かれつや子は初江に入浴するように勧め

弘江は恥じらう。

 

 信次郎から跡目が石戸に決まった事を聞いた松田

は怒りがおさまらない。

 

 料亭の内祝い会合で松田は石戸の跡目継承を糾弾

し仙波に注意される。

 

 中井は怒りを抑えるように松田に頼み弘江の事も

考えてやってくれと懇願する。

 

 音吉と久美の将来を信次郎・つや子夫妻は語り

あう。

 デパートで鉄男・弘江・実は親子三人で楽しい

時を過ごす。千鳥で刺客健二とその一派に襲われ

た松田は撃退し健二を捕えヤキを入れて竹刀で殴

り天竜一家に頼まれたと証言を得る。石戸の犯行

と見た松田は健二を入れ、石戸に跡目披露を潰す

と宣言する。

 

 大阪で西尾親分は松田に組を持たしてやって

言う事聞かへんかったらおまはんが引導渡さな

あかんで信次郎を指導する。

 

 信次郎は松田が石戸に怒った事を聞く。東京

に戻った中井に仙波は松田の無期限謹慎処分を

伝える。

 

 千鳥で中井は松田に怒りを抑えて欲しいと頼

むが松田の怒りの炎は収まらない。中井は交わ

した盃を出す。

 

 

  信次郎「こいつはおめえと五分に交わした兄弟

     の盃だ。おめえがどうしてもドスを引か

      ねえと言うんなら、俺はこいつを叩き割

      っておめえの向こう渕に回るぜ。それで

      もやるのか?」

 

   松田「おめえの言うとおりにするよ。こんな小さ

      な盃の為に男の意地を捨てなきゃならね

     えのか?」

 

 会話を襖越しに聞いた音吉は石戸を襲い失敗し中井

組に逃げ込む。

 中井が石戸に話し合いを頼む。

 

 松田は中井組に乱入し音吉は倅だから貰うぜと宣言

しつや子が諫める。つや子は私を殺してから行って下

さいと述べる。流石の松田も姐さんは斬れない。音は

俺を斬って下さいと親父さんに頼む。久美が泣く。

 

 つや子は戸を開けて松田と音吉を出す。

 

 信次郎が帰宅すると自殺したつや子の遺体を見て

悲しむ。話し合いは成り立っていたのだ。

 

 つや子の墓に信次郎・弘江兄妹が参る。松田が

現れる。弘江は夫に誰が姉さんを死なせたかわか

ってるのと問う。松田はつや子の墓に参る。

 信次郎は破門状が出た事をつげ、松田は石戸

の跡目披露は潰すと宣言し両者の対立は決定的

になる。弘江は悲しむ。

 

 

  弘江「兄さん。姉さんが何の為に死んだ

     のか分かっているの?姉さんは自

     分一人の命で兄さんや松田や音さ

     んや、みんなの命を助けようとした

     んですよ。それなのに姉さんのお墓

     の前で!兄さん。それでも人間な

     の?」

 

 信次郎「松田。おめえの命は弘江に

     預ける。」

 

 松田は馬鹿な男なんだと自己確認し愛する弘

江の制止を振り切る。音吉は中井に詫び、中井

はやくざを辞めろと告げる。

 

 石戸の襲名披露が盛大に開催される。河島

と仙波は大日本同志会結成を語り、天竜一家

も入り花会の寺銭を活動資金にすると石戸に

告げる。石戸は怒り二人の提案を拒絶する。

 

 修善寺において石戸は松田に襲撃され刺され

負傷するが命を取り留め逃げる。

 

 音吉と友水谷岩吉はもみ合い、音吉に刺され

た岩吉は久美ちゃんを大事にしろと告げて絶命

する。

 

 傷を負った石戸は中井に河島・仙波の陰謀を

告げ、傷ついた身体でも襲名披露を行うと宣言

する。

 西尾や河島が襲名披露に出席する。

 

 仙波の乾分野口は旅館で臥せって養生する

石戸を見舞うと見せて刺殺する。

 

 仙波は石戸暗殺は松田の犯行と決めつけ、

寺銭は兄弟会で預かると指示する。中井は

反発し松田の犯行ではないですと述べる。

松田の肩を持つ男に寺銭は預けられねえと

仙波は冷酷に語る。

 

 

  信次郎「叔父貴衆、御一党さん。そこ

      まであっしを疑うんなら松田

      の事はきちんと身の証を立て

      てきます!」

 

 

 

 中井信次郎は佐野屋旅館に現れた。小林

音吉は信次郎を見て、親分松田鉄男を制裁に

来たと直感する。信次郎は「二階だな?」と問

う。音吉は匕首を抜く信次郎を止める。「どけ!」

と叱る信次郎。音吉は飛び込んで自身の身に

信次郎の匕首を刺す。

 

    音吉「これで姉さんの側に。叔父貴、親

       父さんを許してやっていおくんな

      さい。」

 

 音吉は絶命する。松田は「音」と呼ぶ。

 

  中井信次郎は匕首を持ち松田鉄男のいる二階

にかけあがる。

 

 ☆忍の人☆

 

 鶴田浩二(つるた・こうじ)は大正十三年十二月

六日兵庫県西宮市に誕生した。本名は小野榮一であ

る。日本映画・歌謡界の大スタアである。

 昭和六十二年(1987年)六月十六日東京都にお

いて六十二歳で死去した。

 

 藤純子は昭和二十年(1945年)十二月一日和歌山

県に誕生した。本名は俊藤純子で結婚後は寺島純子

である。現在の芸名は富司純子である。

 

 桜町弘子は昭和十三年(1938年)六月十六日に

静岡県に誕生した。本名は臼井真琴である。旧芸名

は松原千浪である。

 

 曽根晴美は昭和十二年(1937年)九月五日大阪

府に誕生した。別名義は曽根将之である。平成二十

八年(2016年)六月十六日七十八歳で死去した。

 

 若山富三郎は昭和四年(1929年)九月一日東京府

に誕生した。本名は奥村勝である。別名義は城健三朗

である。

 

 笠原和夫は昭和二年(1927年)五月八日東京府に

誕生した。

 平成十四年(2002年)十二月十二日七十六歳で死

去した。

 

 山下耕作は昭和五年(1930年)一月十日に鹿児

島県に誕生した。愛称は将軍である。平成十年(1

998年)十二月六日に六十八歳で死去した。

 

 笠原和夫の緻密な脚本と山下耕作の重厚な演出

により、『博奕打ち 総長賭博』は東映任侠路線

を代表する大傑作となった。

 

 中井・松田・石戸が刑務所前で兄弟三人の義を

確かめ合う場面は後の悲劇を思うと切ない。

 

 料亭で石戸を糾弾する松田の凄みに圧倒される。

 

 千鳥で盃を出して任侠道から松田と対立してで

も組を守ると宣言する中井。中井と松田が対面し

盃を基点に二人の間に精神的な川が流れ、対立に

位置する。

 

 義と義で繋がり合っている二人がそれぞれの任侠

道で争ってしまうドラマが心に響く。

 

 風呂場で自殺するつや子の献身と捨身は悲劇美

を明かす。

 

 桜町弘子の母性の暖かさは圧巻である。

 

 雨の日の墓地で信次郎・弘江・松田の三者の語り

合いは壮絶である。

 

 笠原和夫のシナリオは悲劇美を連続させて打ち出

す。

 

 中井信次郎は任侠精神を尊び天竜一家が平和のう

ちに歩むことを祈り争いを止めるがその願いは潰さ

れる。

 

 仙波多三郎の冷酷非情な罠により天竜一家の人々

は嵌められ関係者も含めて命を落とす。

 

 つや子は自殺し、岩吉は友音吉に刺殺され、石戸

は野口に刺殺され、音吉は中井の匕首で自殺する。

 

 黒幕は河島と仙波である。二人が裕仁統帥大日本

帝国の大陸進出を手伝う形で麻薬商法を為し天竜一

家を利用したことが原因だ。

 

 だが、それに先立って信次郎が荒川一家の跡目

継承を親分衆に望まれて固辞したことこそ真の悲劇

の因である。

 

 大阪で盃を受けた身として東京に本拠地を置く

余所者の自分は跡目を受けられませんと中井が

筋を立て通した事が仙波に付け入る隙を与えた。

 

 信次郎の義理固く優しい気性は任侠道を篤く

敬う。その生真面目な生き方が悲劇を惹起せし

める。

 

 鶴田浩二が苦悩を堪え耐え抜く我慢劇を深い

芸で見せる。

 

 

   『総長賭博』という作品は、僕自身はTVシリー

   ズの『アンタッチャブル』を意識して書きまして

   ね。スピーディーなテンポを期待してたんです

   よ。でも試写を観た時に「何でのろいんだ!」

   って怒っちゃって山下耕作監督に文句を言った

   んですけど、これがまた劇場で観たら良いん

   だわ。

   (『仁義なき戦い 浪漫アルバム』147頁

    平成十年五月三十一日発行 徳間書店)

 

 笠原和夫が意識した作品はロバート・スタック主演

版のテレビシリーズ『アンタッチャブル』のテンポと

リズムであった。

 

 山下耕作監督はじっくりと深く脚本を映像化し重厚

なリズムで物語を進めた。その繊細な作り方・撮り方

が、脚本に語られるドラマ美を静かに明かした。

 

 

  中井信次郎は寺銭を守り、松田鉄男の一味ではな

いことを立証する為に、渡世の筋から松田を自身の手

で制裁することを強いられる。佐野屋旅館に着いた信

次郎は音吉と再会する。

 鶴田浩二の凄みと殺気は凄まじい。三上真一郎の悲

しみの表現も強烈だ。音吉は自殺の形で信次郎に詫び

る。信次郎は可愛い音吉を自身の刀で死なせてしまった

ことを悲しむ。

 

  松田の「音」の呼び声が響く。一瞬の隙をついて信

次郎は二階を駆け上がる。悲劇が起こる。

 

 松田はずっと石戸の陰謀と思い込んでいた。その気持

ちを中井は察する。

 

  弘江と実の親子が東京から静岡県修善寺のこの

佐野屋旅館に到着した。二階で何が起こったかを察知

した弘江は二階へとあがり、「人殺し」と兄を叱る。

 

 

 笠原和夫がシナリオで描いた会話と山下耕作

の演出には違いがある。

 

 シナリオでは佐野屋旅館二階に弘江が二階にあがり、

兄信次郎は謝罪する。

 

   

  信次郎「こうするしかなかったんだ。」

 

  弘江「何の為に!?何の為に!?」

  

  不意に狂ったような激しさで信次郎の頬

 を滅多打ちにする。

 

   弘江「気狂いッ!!人殺し!!人殺しッ、

     人殺しッ、人殺しッ、人殺しッ!!」

    (『笠原和夫人とシナリオ』91頁

     シナリオ作家協会 

     平成十五年十一月七日発行)

 

 

  

 藤純子が鶴田浩二を殴るシーンは見たかった

という気持がある。

 

 

  笠原 ええ、それが一種のコロスということ

      ですね。要するに鶴田が階段を上が

      っていくスピードと同じように、今度は

      下のほうから「人殺しッ!人殺しッ!

      人殺しッ」という合唱が入るという感じ

      でね。そういうのを狙っていたんだけ

      ど、これを山下はイヤがるんだなあ。

  (『昭和の劇』209頁

   平成十四年十一月六日発行 太田出版)

 

  

 

 更に注目すべきは、笠原和夫の脚本では実

少年が泣いて信次郎が通り過ぎるという設定だ

が、完成版では甥実が叔父信次郎に声をかける

ことになっている。

 

  この改変はどのようにして為されたのであろ

うか?

 

   山下 僕は、俳優とぶつかることはほとん

       どないんです。俳優さんには自由に

       演ってもらっています。監督はいいか

       げんに中途半端なのがいいんです(笑)。

       只、一度だけ、『総長賭博』の時、ラ

       ストで鶴田さんが子供を抱いて若山

       さんを刺すシーンがあって、その時、

       「マキノ雅弘監督は、子供をつかう

       のがうまいけどなぁ」という鶴田さんの

       小声が聞こえたんです。その時だけは

       頭にきたねぇ。だけど僕は撮影を中断

       してスターさんを待たせるのはイヤな

       んです。そこで鶴田さんに「オジちゃん、

       お父さんは?」と子供に言わせるから

       と、急きょ変更プランを告げて、撮影

       続行したんです。するとセットから下り

       てきた鶴田さんは涙ぐんでいましたよ。

       (『浪漫工房 特集 松方弘樹 いま

        最も映画を愛する男』55頁 山下耕作

        インタビュー 平成九年一月二十八日

        発行 創作工房)

 

  大詰めのシーンにおいては鶴田浩二からマキ

ノ雅弘監督は子供をつかうのがうまいという声が

語られ、これが山下耕作監督のプライドを指摘し

「頭にきた」と確かめる程怒りつつ、即興のような

速さで実の「オジちゃん、お父さんは」の台詞が

浮かび、子役香川秀人に言ってもらうこととなっ

た。

 実少年は叔父に「叔父ちゃん、お父さんは?」と

問う。甥を傷つける存在は自己自身であることを痛

感し信次郎は何も言えず悲しみを目に浮かべて無言

で去っていく。

 この名場面は、鶴田浩二の言葉に刺激を受け

た山下耕作監督のひらめきによって生まれたの

だ。セットから下りてきた鶴田浩二は涙ぐんでい

たという。活動屋はワンシーンワンカットに燃えて

いる。

 

 

 

 中井信次郎は任侠道を尊重しそこに命を燃やしてき

た。だがその生き方の果ては大切な存在を殺してしま

うことであり、最愛の妹から「人殺し」と糾弾される。

 

 笠原和夫の悲劇は美しい。

 

 鶴田浩二の悲しみの探求も美しい。

 

 山下耕作の演出の美は、言葉も文字も及ばな

い。

 

 信次郎は襲い掛かった野口からこれまでの陰謀を聞

き出し野口を刺殺し宿に戻り全ての事件の黒幕として

仙波を糾弾する。

 

   仙波「叔父貴分の俺にドスを向けようっての

      か?てめえの任侠道はそんなものな

      のか?」

 

   信次郎「任侠道?そんなものは俺にはねえ。

       俺はたただのけちな人殺しだ。そう

       思ってもらおう!」

 

 追い詰められ悪事を暴かれた仙波は最後の頼

み綱としてやくざが叔父貴に匕首を突き付けるの

はおかしいと主張し任侠道と違っているぞと非難

する。

 

 だが信次郎は「任侠道?」と問い返し、「そんな

ものは俺にはねえ」と明確に否定し、「俺はただの

けちな人殺しだ」と自己確認する。

 

 糾弾から逃げる仙波の苦渋を金子信雄が深く表

現する。

 

 

 任侠道を大切に敬い、仁義を重んじ、苦しい

役目を荷うことで学んできた信次郎は、自身の

姿を 「けちな人殺し」と確かめる。

 

 六人衆・中井組・仙波組の人々に惨劇の様子

を見せつつ、信次郎は自首の方向性を示しつつ

神棚に匕首を投げる。

 

 中井の切なさを思うかのように暖かい視線を

五井常次郎親分が送る。原健策の眼の名演に痺れ

る。

 

 笠原和夫のシナリオでは信次郎は乱闘し、ナ

レーションが入る。

 

 山下耕作の演出では、信次郎は神棚に匕首を

捨てやくざ社会に悲しみを伝える存在となってい

る。本篇のラストにおいて信次郎は任侠道・やく

ざ社会に精一杯の抵抗を試みている。        

 

 「混沌」に終わる笠原和夫脚本と「抵抗」精神

を明かす山下耕作演出。

 

  どちらも輝いている。

 

 『博奕打ち 総長賭博』感想は平成三十年(20

18年)一月十四日から令和二年(2020年)六月

十六日にかけて全十八回で述べた。

 

 本日中井信次郎の忍耐に学びたいと希望し過去

の意見を確かめつつ新たに尋ねた。

 

 

 任侠道を守り貫こうとして、人殺しになってし

まう。その悲しい事実を中井信次郎は忍ぶ。

 

 大いなる忍を学んだ。

 

 ラストシーン。

 

 鶴田浩二の目には光があった。

 

 

 鶴田浩二没後三十五年・三十六回忌命日

 曽根晴美没後六年・七忌命日

 桜町弘子八十五歳誕生日

      令和四年(2022年)六月十六日

 

                  合掌

 

 

              南無阿弥陀仏

 

 

                 セブン