#映像化に成功したと思う作品 オーソン・ウェルズ主演・脚本・衣装・監督版『マクベス』
『マクベス』
Macbeth
映画 トーキー 107分 86分 白黒
1948年10月10日アメリカ公開
1951年5月31日イギリス公開
昭和二十七年（1952年）三月六日日本封切
製作国 アメリカ
製作原語 英語
原作 ウィリアム・シェイクスピア
製作 マーキュリー・プロダクション
製作担当 チャールズ・K・フェルドマン
共同制作者 リチャード・ウィルソン
脚本 オーソン・ウェルズ
会話 ウィリアム・アランド
撮影監督 ジョン・L・ラッセル
撮影 ウィリアム・ブラッドホールド
編集 ルイス・リンゼイ
美術 フレッド・リッター
装置 ジョン・マッカーシー・ジュニア
特殊効果 ハワード・ライデッカー
セオドア・ライデッカー
音楽 ジャック・イヴァ―ト
音楽監督 エフレム・クルツ
衣裳 オーソン・ウェルズ
フレッド・リッター
アデル・パルマ―
美粧 ボブ・マーク
音響 ジョン・ストランスキー・ジュニア
ゲイリー・ハリス
出演
オーソン・ウェルズ（マクベス）
ジャネット・ノーラン（マクベス夫人）
ダン・オハライリー（マクダフ）
ロディー・マクドウォール（マルコム）
エドガー・バリアー（バンクォー）
アースキン・サンフォード（ダンカン）
アラン・ナピアー（聖人）
ジョン・ディアーケス（ロス）
ペギー・ウェヴァ―（マクダフ夫人 魔女）
ライオネル・ブラハム（シュア―ド）
アーチィー・ヒューグリー（小シュア―ド）
クリストファー・ウェルズ（マクダフの息子）
ブレイナード・ドーフィルド（第一の刺客 魔女）
ジョージ・チィレーロ（シートン）
ガス・シィリング（門番）
ジェリー・ファーヴァ―（フリーアンス）
ルーレーン・タトル（貴婦人 魔女）
チャールズ・レデラー（魔女）
ロバート・アラン（第三の刺客）
モーガン・ファーレー（医者）
監督 オーソン・ウェルズ
◎
鑑賞日時場所
平成二十六年（2014年）九月二十八日
PLANET＋1
◎
魔女達が鍋を煮込み人形をこねて武将
マクベスの名を呼ぶ。
スコットランドの武将マクベスは反乱軍を倒し
友の武将バンクォーと共に帰還した際に怪しげ
な魔女三人と出会う。
魔女はマクベスに「コーダーの領主になられる
方」「国王になられる方」と祝福し、バンクォーに
は「王にはなれぬが、将来の王を生み出される
方」と予言して去る。
マクベスは国王ダンカンの使者ロスからコーダ
ーの領地を恩賞で貰えることを聞き、魔女の予言
の一つが当たった事を実感し、野望の爪を砥ぐ。
妻に野望の計画を手紙で知らせる。マクベス夫
人は野望の炎を燃やす。
ダンカンが自身の城に宿泊することをマクベスは
妻に告げ、夫人は国王暗殺を強く勧める。
ダンカンはマクベス夫妻を信頼しきって泊まる。
迷うマクベスに夫人は、国王になれる機会と強く
語り、意を決したマクベスはダンカンを暗殺する。
同時に「マクベスはもう眠れぬ」という声を聞き
血に染まった手に悩む。罪はダンカン付の家臣
二人に擦りつけて殺したマクベスは、待望の王冠
を得るが、内心の不安はますます大きくなる。
脅威に感じたバンクォーを殺すが、その息子
フリーアンスは取り逃がし、宴会に現れたバンク
ォーに恐れおののく。
魔女を尋ねたマクベスは、武将マクダフに気を
つけること、女の腹から生まれた者にマクベスは
倒せぬこと、バーナムの森が動かぬ限りマクベス
は安泰であることを教わる。
マクダフさえ倒せば自身の王位は安全であり、
女の腹から生まれなかった者は居ないし、森が
動くはずはないと考えたマクベスはマクダフを
狙い彼の妻子を殺す。
マクベス夫人は罪の意識に苦しみだす。
ダンカンの息子マルコムとマクダフは共に大切
なひとをマクベスに殺された気持ちから信頼関係
を結び、対マクベスの軍を起こす。
マクベスの良心を刺激し糾問していた聖人は
刃物を受け命を落とす。
罪悪感に悩む王マクベスは最後の気力を振り
絞って、マルコム・マクダフと戦う決意を固め
る。
マクベスは奮闘するが、マクダフに倒され
斬られる。
マルコムは父ダンカンの仇を討ち王位に就
く。
☆ウェルズ演出の迫力☆
Orson Welles オーソン・ウェルズは19
15年5月6日アメリカ合衆国ウィスコンシン
に誕生した。
1985年10月10日カリフォルニア州ロサ
ンゼルスにおいて70歳で死去した。
幼年時代からウィリアム・シェイクスピア
の戯曲に熱中していたという。
26歳の1941年に主演・脚本・監督で『市
民ケーン』を発表する。チャールズ・フォス
ター・ケーンの生涯を悲哀の人として描く。
断末魔に語る「rose bud」（薔薇の蕾）が
観客の胸に迫る。
梅本洋一の研究によると1947年夏ハリウ
ッドのリパブリックスタジオで23日間で本
作『マクベス』を撮ったという。
脚本・衣装・主演・監督を兼ねて怪奇味た
っぷりの映画版『マクベス』を成り立たせた
ウェルズは天才だ。時に32歳の若さである。
魔女の人形こねから怖い。不気味で暗いム
ードは全編を覆っている。
野心を魔女に刺激され、ダンカン暗殺・王位
簒奪の罪を犯す。
マクベスが血を流す事を選ぶ魔性をウェルズ
が重厚に演じる。
罪に苦悩し追い詰められ魔女に裏切られ怯え
る。
苦悩と迷悶をウェルズは繊細に表現する。
本作では前述したとおり聖人が映画版オリジ
ナルキャラクターとして登場する。マクベスの
良心を鋭く突き刃物を身に受けて亡くなる。
アラン・ナピアーの凄みは強烈だ。
流血と殺人を犯し己の罪の報いを受ける訳
だが、逃げたくても逃げられない罪人マクベ
スの悲しみをウェルズは生々しく打ち出す。
ジャネット・ノーランのマクベス夫人は綺
麗だった。
ロディー・マクドウォールのマルコムは繊
細であった。颯爽としていて華麗な王子であり
追討軍の大将の貫禄も豊かだった。
後に『刑事コロンボ』においてジャネット・
ノーランは『二つの顔』『策謀の結末』で母性
と貫禄、ロディ・マクドウォールは『死の方程
式』で野望を豊かに表す。
『攻撃命令』は『市民ケーン』へのオマージ
ュである。
『魔術師の幻想』の犯人役候補にウェルズが
想定されていたという説もある。ジャック・キャ
シディの名演に感嘆したが、ウェルズの演技も
見てみたかったという心はある。
あらゆる偉大な演技はほぼ常に白黒だと
思っている。たとえば『リア王』は『ビ
ッグ・プラス・リング』と同じく白黒で
撮りたいね。
（「語るオーソン・ウェルズ」
『シネアスト2 オーソン・ウェルズ』
95頁
1985年9月20日発行 青土社）
1982年2月19・20日の電話インタビューで
白黒映像の演技の尊さを確かめ監督作品として
予定されていた『リア王』の構想を語っている。
主演でリア役に自身が演じる事もインタビュ
ーから想像し得る。これは見たかった。
このインタビューでウェルズは『ヴェニスの
商人』映像版を製作したがフィルムが盗まれた
という衝撃的告白をしている。ウェルズがシャ
イロックを演じたかどうかは分からない。『ザ・
ディープ』という作品の構想もあったようだ。
『リア王』は一流の役者を五人起用しなけれ
ば作れないとも語っている。
フランシス・フォード・コッポラについては
酷い発言をしている。監督になるよりも金儲け
狙いだとか酷すぎる批評であり、崇拝するウ
ェルズ先生でも抗議したい。
ウェルズとコッポラは俳優・脚本家として
『パリは燃えているか』で組んでいる。自分
は銀幕未見でスクリーンで見たい大作だ。製
作撮影中巨星オーソンと新星フランシスは何
かあったのだろうか？
だが、ウェルズがコッポラを叩きまくった
のは対抗意識かもしれない。
電話インタビューの1982年2月19・20日、
ウェルズは自身監督版『リア王』への意欲
を燃やしている。
ウィリアム・シェイクスピア戯曲を幼年時代
から身読していたオーソンにとって、「シェイ
クスピアの暴力は黒澤以上に学んだ」と語り『ゴ
ッドファーザー』を撮ったコッポラは若きライ
バルではなかったか？
本作『マクベス』『オセロー』『オーソン・
ウェルズのフォルスタッフ 深夜の鐘』の三本
が達人オーソン脚本・主演・監督シェイクスピア
戯曲映像化作品がある。
映画の世界にシェイクスピア戯曲の生命を
息吹かせた。
魔女が放つ不気味な雰囲気に幻惑され野心
をくすぐられ殺人・流血を重ね王位を奪うが
王位を保つ為に更に多くの血を流し魔女に裏
切られ捨てられ敗死する。
厳しい評価もあるが見応えは十二分にあ
る。
現在黒澤明監督作品『蜘蛛巣城』が午前十時
の映画祭12で公開中だが、こちらも大傑作であ
る。
永遠不滅の美映画『恋におちたシェイクスピ
ア』も現在公開中である。
映画好きではなくて映画生き甲斐生物の自分
が珍しく恋している映画は『恋におちたシェイ
クスピア』である。
恋におちたシェイクスピア SHAKESPEARE IN LOVE
ロマン・ポランスキー監督、ジョン・フィンチ
主演版『マクベス』は傑作だがテレビ放送版しか
見聞していないので銀幕鑑賞を希望する。
2021年8月8日ニッショーホール公演『マクベス』
は主演・演出横内正の気迫と熱意が結実した傑作舞台
であった。
80歳横内正・36歳三船敏郎・33歳オーソンと名優
達の至芸がマクベス役に光っている。
2014年9月28日プラネットプラスワンでウェルズ
版『マクベス』を鑑賞した感激は大きい。
マクベスの野望と破滅を鋭く探求した傑作
である。
（2022年9月28日投稿記事を再編している）
合掌