朝、気温を見てから服を決める生活に慣れてしまって、
街にいた頃の「天気予報を見る習慣」はほとんどなくなった。
ここでは、窓を開けるのがいちばん正確だ。
今日は少しだけ風が強くて、
木の上のほうだけがざわざわしていた。
下は静かなのに、上だけが落ち着かない感じ。
こういう日は、だいたい来客が少ない。
山小屋の仕事は、忙しい日と、
「一日中、誰とも話さない日」の差がはっきりしている。
前はそれが少し怖かったけれど、
今は、静かな日も悪くないと思える。
何もしない時間に、
いつもなら気づかない音や匂いが入ってくるから。
昼過ぎ、棚を拭いていたら、
古いノートが一冊出てきた。
前にここで働いていた人のメモらしくて、
買い出しの記録とか、
「今日は霧が濃い」とか、
本当にどうでもいいことしか書いていない。
でも、そのどうでもいい感じが、少し羨ましかった。
誰かが確かにここで暮らしていて、
特別じゃない一日を積み重ねていた証拠みたいで。
夕方、外に出たら、
風はもう止んでいて、空だけが広かった。
今日も何事もなかった一日。
たぶん、それがいちばんいい。
