設問1小問1
1 令状の種類
尿は血液と異なり、体外に排出されるものであるから、物の性質があるといえるので、強制採尿を実施するためには、捜索差押令状(刑事訴訟法218条1項)が必要である。また、強制採尿は身体への侵襲を伴い、人の身体を傷つけるおそれのあるものなので、同条6項を準用して、採尿が医師による医学的に相当と認められる方法で行われなければならないという条件を付すことも必要である。
2 令状発付の要件
(1)強制採尿は、身体への侵襲を伴い被疑者の身体を損傷するおそれがあるとともに、個人の尊厳を棄損する可能性のある捜査手法なので、「強制の処分」(197条1項ただし書)としても許されないという見解がある。しかし、身体への損傷については、医師をもってすれば、可能なかぎりそのような損傷の発生を防ぐことができるし、他の強制捜査でも同じ程度に個人の尊厳を棄損する可能性のあるものは存在する。そこで、上記の令状を発付するためには、①被疑事実の重大性、②嫌疑の存在、③証拠の重要性、④代替手段の不存在、⑤身体への損傷の可能性などを考慮して、強制採尿が真にやむを得ない場合であると認められる必要があると考える。
(2)①本件の被疑事実は、覚醒剤使用の罪であり(覚醒剤取締法19条、41条の3第1号)、10年以下の拘禁刑となる重大な罪である。また、②被疑者である甲は、左肘内側に真新しい注射痕様のものがあり、頬がこけ、目を開き、手足が小刻みに震えているなど、覚醒剤常用者特有の様子が見られたことから、甲が覚醒剤を使用しているという相当な嫌疑が認められる。③そして、甲の尿から覚醒剤の成分が発見されることは、甲を覚醒剤使用の罪で有罪にするための極めて有力な証拠となる。④くわえて、直接の被害者がいない覚醒剤事犯のような事案では、尿というものは極めて有力な証拠となるものであり、他に替えることのできない証拠である。⑤さらに、甲に対する採尿は医師によるものとされているので、可能なかぎり甲の身体の損傷の可能性を低くすることができる。
(3)以上のような事情を考慮すると、本件では、甲に対する強制採尿に関する令状発付の要件を満たしていたといえる。
3 下線部②の行為の適法性
(1)強制処分であっても、捜査比例の原則が及ぶから、強制採尿も捜査の目的を達成するのに必要な限度で認められる。具体的には、①最後の手段といえる必要があり、②医師による安全な方法で実施されることが必要であると考える。
(2)本件では、甲は、Pによる再三の指示にも関わらず、水分を摂っていなかった。そして、甲は、尿を出そうとしても出ないような状態であると弁明している。これは、甲が、自らの覚醒剤の使用をPから隠すために、意図的に水分を摂らなかったと考えられる。そして、Pは甲に対し、強制採尿を実施する直前でも最後の通告として、30分にわたり、任意に尿を提出することを求めているところ、甲はこの段階においても、「出したくても出ない」とか「出さないとは一言も言っていない」などと申し向けており、採尿を拒む明確な意思が認められるといえる。したがって、①強制採尿は最後の手段といえる。また、甲の採尿を行ったのは、泌尿器科で10年の経験があるY医師であり、毎年5件ほどの強制採尿を実施していた医師である。そして、Pらは、Y医師の指示により、万が一甲が痛みで暴れ尿道を傷つけることがないように甲を押さえつけていた。このような事情からは、強制採尿は、②医師による安全な方法で実施されたといえる。
(3)よって、下線部②の行為は適法である。
設問1小問2
1 検証(218条1項)とは、五官の作用により感得した外部の情報を記録することである。
2 下線部③のCT検査は、X線というレントゲンを使用して、医師であるTがPの補助機関として、視覚という五官の作用により感得した乙の体内の様子を撮影した様子を記録したものである。CT検査は、乙の体内にマイクロSDカード様の異物が存在するか、その位置がどこかを確認するために、X線を用いて身体内部の状態を撮影・記録するものである。
3 このように、CT検査は身体内部の状態を撮影するものであり、乙の身体の自由・プライバシーを制約する強制処分であるから、令状による司法審査を要する。この令状としては、身体内部の状態を五官の作用により確認・記録する処分である以上、検証令状によるべきである。
設問2小問1
1 320条1項は、公判廷外の供述を内容とする「書面」を公判廷において証拠にすることはできないと規定する。
本件DVDの内容は、乙の誕生会における乙とWの発言を録画した音声をその内容とするものなので、実質的にみて、人の供述が記録されている書面と同様の作用を有するものといえるので、「書面」にあたる。
したがって、本件DVDは、公判廷外の供述を内容とする「書面」にあたる。
2 伝聞法則の趣旨は、人の供述は、知覚・記憶・表現・叙述という過程を経るから、間違いが入りやすいので、反対尋問でその内容の真実性を確認できない証拠を証拠排除するものである。したがって、伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする書面で、要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるものをいうと解する。
本件では、本件DVDの音声に記録されたWの供述の中に乙の供述が存在するという二重の伝聞過程を経た証拠の証拠能力が問題となる、いわゆる再伝聞の問題である。そして、再伝聞であっても、通常の伝聞と同じように検討して、伝聞性を判断するものと考える。
3(1)検察官の本件DVDの立証趣旨は、「乙が令和8年1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと」である。検察官は、この事実を立証することにより、乙と甲の間の覚醒剤譲渡の共謀の事実を証明しようとしていると考えられ、要証事実も立証趣旨と同じである。
下線部④のうちの乙の発言部分は、乙による供述であり、その内容は、乙が20日の昼頃にJ公園で甲と会っていたことを内容とするものである。検察官が立証したい事実が、「乙が令和8年1月20日昼頃にJ公園で甲と会ったこと」である場合、この乙の発言の内容が真実である必要があるといえるから、要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるといえる。
よって、下線部④のうちの乙の発言部分は伝聞証拠にあたる。
(2)では、伝聞例外が認められないか。
まず、乙の弁護人からは、326条の同意はない。
そこで、下線部④のうちの乙の発言部分は、被告人以外の者であるWの発言中に含まれた被告人である乙の発言であるから、324条1項が準用する322条1項の伝聞例外を検討する。
乙の被疑事実は、覚醒剤の譲渡であり、下線部④の発言によって、甲との間の覚醒剤譲渡の共同実行の事実を証明することができるから、下線部④の乙の発言は、被告人である乙にとって不利益な事実の承認を内容とするものである。また、乙のこの発言は、自らの誕生日会において、交際相手であるWとパーティーを開いていた時になされたものなので、乙の自由な意思によりなされたものということができるので、任意になされたものと評価できる。
また、乙の発言部分は、乙の発言を科学的な方法により記録したものなので、「被告人が作成した供述書」と同視できるから、署名押印は不要である。
したがって、324条1項が準用する322条1項の伝聞例外が認められる。
(3)よって、下線部④のうちの乙の発言部分の証拠能力が認められる。
4 では、Wの発言部分はどうか。
(1)W発現部分は、乙の発言部分を含むものであるから、W発現部分も伝聞証拠にあたる。
(2)また、この部分についても、乙の弁護人の326条の同意はない。
Wの発言は、「前二号に掲げる書面以外の書面」にあたるから、Wの発言について検討すべき伝聞例外は、321条1項3号である。
Wは、令和8年2月に交通事故により死亡しており、供述不能といえる。
また、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができないもの」とは、当該証拠を証拠とするか否かにより事実認定に著しい差異を生じさせる証拠をいう。本件では、乙と甲の共謀を証明する直接的な証拠は存在しないところ、Wの発言の内容は、被告人である乙自身が自ら甲と共謀をしたことについて、極めて重要となる発言をしていることをその内容とするものであり、当該証拠を証拠とするか否かにより事実認定に著しい差異を生じさせる証拠にあたるので、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができないもの」といえる。
そして、Wには乙に不利益な供述をする動機はないし、Wは自由な意思により任意にその発言をしたと思われるし、Wに外部的に圧力等が加わっていたという事情もないから、特信情況も認められる。
署名押印は、記録が正確に取られたことを担保するために必要とされているところ、本件DVDは科学的な方法により記録されたものなので、記録が正確に取られたことは担保されているといえるから、Wの署名押印は不要である。
以上より、Wの発言部分には、321条1項3号の伝聞例外が認められる。
(3)したがって、Wの発言部分の証拠能力が認められる。
5 よって、下線部④の証拠能力が認められる。
設問2小問2
1 資料2は伝聞証拠にあたり、証拠能力が否定されないか。
2(1)資料2は、公判廷外の供述を内容とする書面にあたる(320条1項)。
また、検察官の資料2の立証趣旨は、「覚醒剤の密売人が客に交付することの多い未使用の注射器12本を乙が所持していたこと」であり、要証事実も同じと考えられるところ、資料2には、乙の携帯電話で乙方内の床の上に置かれている状態を記録した様子が記載されているので、要証事実との関係で、その内容の真実性が問題になるといえるから、資料2は伝聞証拠にあたる。
(2)本件では、乙の弁護人から326条の同意はない。
資料2は、Pが五官の作用により動画データの内容を見分し、その結果を記録したものであるから、実況見分調書に準じて証拠能力を検討する。そして、実況見分調書については、その実質は検証と変わらないものであることから、321条3項を準用して、その伝聞例外を検討するものと解する。
資料2も、供述者であるPが公判期日において、証人として尋問を受け、資料2が真正に作成されたものであると証言したときには、321条3項の準用により、伝聞例外が認められる。
(3)よって、資料2の証拠能力が認められる。
3 写真部分について
写真部分は、乙方の床にあった注射器12本を撮影したものである。写真部分は、要証事実との関係で、何らの推認を経ることなく、要証事実を証明することができるから、要証事実との関係でその内容の真実性が問題にならない。
よって、写真部分は非伝聞である。
4 記載部分について
記載部分は本当に未使用の注射器を密売人が客に交付することが多いのかという事実の存在が問題になるので、要証事実との関係でその内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠にあたる。
そして、Pは公判廷で証言可能なので、321条1項3号の伝聞例外も認められない。
よって、記載部分の証拠能力は認められない。
5 以上より、写真部分の証拠能力は認められるが、記載部分の証拠能力は認められない。