設問1
Pが①の捜査を指示した時点での捜査機関が保有している証拠としては、A1が所持していたV方の住所が書かれたメモとVのA1が犯人の容ぼうや服装とよく似ているという旨の供述がある。
A1は、Vに対する詐欺罪(刑法246条1項)の被疑事実で逮捕されており、上記の証拠は、A1が詐欺の犯人であることを相当程度推認させる。
交通系ICカードの履歴を解明して、A1がV宅の最寄りの駅まで当該事件の時間帯に移動したということが判明し、タクシーの領収書から、A1が駅からV宅へ移動したということが分かれば、これは、A1が本件詐欺事件の発生した時間帯にV宅を訪れたという事実を証明でき、A1の犯人性を補強する証拠となる。
設問2
1 本件で立証が求められる詐欺の故意(刑法38条1項本文)は、A1が、Vから封筒を受け取ることはVに対する詐欺の実行行為であると認識・認容していたことである。
2 詐欺の故意の認定に消極的に働く事実
まず、A1は、バイトの依頼主である氏名不詳者にバイトに違法性はないことを確認し、違法ではないという回答を得ている。これは、A1がバイトは違法なものではないという認識をしていたという根拠となる事実である。また、A1は、それ以上バイトの違法性について確認していないので、A1は、確定的にバイトは違法なものではないと認識したという可能性がある。
また、A1は、Vに名前を聞かれた時に、自らの本当の名字を教えている。もしA1がバイトを違法なものと認識していれば、自らの犯罪を隠す意図が働くと考えられ、本当の名字を教えなかったと考えられる。
3 詐欺の故意の認定に積極的に働く事実
まず、バイトの依頼主が氏名不詳者というのは、不自然な事実である。また、荷物を1回受け取るだけで10万円もの高額な報酬があるということは、その荷物が何らかの法に違反する物であることを推認させる。詳しい内容は仕事を引き受けた後に話すというDMの返信も、バイトの内容は記録に残すことができないものであることを推認させる。この時点で通常の一般人であるならば、バイトは何か違法性のあるものであることを強く疑うと考えられる。
また、荷物を受け取るときには息子の代わりに受け取りに来た部下の者を名乗ることの指示は、典型的な特殊詐欺の受け子の行為態様にあたる。また、荷物を渡す人が高齢女性であることも、典型的な特殊詐欺の被害者の特徴である。この時点で通常の一般人であるならば、バイトは特殊詐欺の受け子であることを一定程度疑うと考えられる。
たしかに、Vから受け取った封筒は、その中身を見ることができなかったので、行為の違法性を認識することは難しかったようにも思える。しかし、封筒には銀行の印が付されており、200万円という札束は、相当程度の厚みになるものと考えられるし、紙幣というものは均一の大きさなので、外観からは封筒の中身が札束であることは容易に推認できるといえる。この事実により、息子の部下を装うという事実と、高齢の女性からそのような封筒を受け取るという事実と相まって、A1は詐欺に加担しており、Vから受け取ったのは金銭であるということを通常人であれば容易に想像することができるといえる。
4 PがA1が詐欺の故意を有していたと判断した理由
たしかに、A1はバイトの違法性について確認しているものの、DMの内容や相手方からすると、一般人であれば、バイトは違法なものであることを強く推認させる。また、A1はVに本当の名字を教えているが、これはとっさに聞かれたので、その条件反射で本当の名字を教えた可能性もある。
そして、当初のDMの内容からは、バイトが違法なものであることを強く疑う事情があるし、指示の内容も特殊詐欺の受け子を連想させるものである。そして、通常人であれば、Vから受け取ったのは金銭であるということを容易に推認することができ、A1には特殊詐欺の受け子としてVから現金を受け取ったという認識があったことを強く推認させる。
以上のような事情を総合的に考慮すると、A1は、Vから封筒を受け取ることはVに対する詐欺の実行行為であると認識・認容していたといえる。
よって、A1は詐欺の故意を有していたといえる。
設問3
1 捜査は公判と密接不可分の関係にあるので、捜査にも事件単位の原則は及ぶ。事件単位の原則によると、取調べに応じる義務があるのは被疑事実に限られる。したがって、事件単位の原則が及ばない余罪について取調べに応じる義務はない。
2 起訴がなされると、当事者主義により、事実の取調べは公判においてなされるべきである。したがって、公判外において事実の取調べはされるべきではないので、起訴後の個別の取調べに応じるべきではない。
設問4
(1) A1は共謀の存在を争っており、Bは共謀内容という立証趣旨は相当ではないと主張している。Bの主張からでは、Bはどのような理由で共謀内容という立証趣旨は相当ではないと主張しているのか明らかではないので、十分な争点を形成することができない。したがって、Jは、Bに対し、その主張の理由について釈明(刑訴規則208条1項)をするべきである。
(2) 本件写真撮影報告書は、「公判期日における供述に代えて書面を証拠とする場合」(刑事訴訟法320条1項)にあたり、伝聞証拠にあたる。そこで、Pは、伝聞例外である321条3項に基づき、Kに本件写真撮影報告書を作成したのはKであることと、本件写真撮影報告書は真正であることを証言させて、証拠採用を求めるべきである。
設問5
Pは、A2に詐欺の承継的共同正犯が成立し得るか否かを判断するために、A2が指示を受けた時期について留意する必要があると考えた。
共犯の処罰根拠は結果に対し因果性を与えたことにあるので、承継的共同正犯が成立するためには、結果に対し因果性を与えたことが必要である。
A2が指示を受けた時期が、A1がVから本件封筒を受領した前であれば、まだ財産の移転という結果が発生する前であり、A2は結果に対して因果性を及ぼし得るが、後であれば、結果は既に発生しているので、結果に対し因果性を与えたということはあり得ない。
以上
2550文字くらい。