特許法
設問1
1 X2はX1に対し、本件特許権の移転請求をする(特許法74条1項)。X2の請求の根拠は、本件発明の特許を受ける権利(29条1項柱書)は、X2に帰属するので、X1の本件特許権は冒認出願によるものであるというものであるので、(49条7号、123条1項6号)X2はX1に対し、74条1項に基づき、本件特許権の移転を請求することができるというものである。
これに対し、X1は、本件発明は職務発明にあたり(35条1項)、X1が、X1の職務発明規定に基づき(35条3項)、Zに通知して、特許を受ける権利を承継したことにより、本件発明の特許を受ける権利はX1に帰属すると反論する。
2 「発明をした者」とは、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者をいう。Zは、X1の社長の指示を受けて、本件発明を、当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者であるから、本件発明を「発明をした者」にあたる。特許を受ける権利は、「発明をした者」に帰属する(29条1項柱書)。そして、X2は、発明者であるZから本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受けている。
3 X1は、X1の従業員であり「従業者等」にあたるZを雇用する者であるから、「使用者等」にあたる。X1は、光学フィルム用合成樹脂の開発、生産、販売を業とする会社であるから、樹脂組成物である本件発明は、「使用者等の業務範囲」に属するといえる。また、「職務に関する発明」といえるためには、当該従業員が当該発明をすることが期待・予期されていたことを要するものであるところ、Zは、X1において、合成樹脂の研究開発業務に従事していたのだから、Zには本件発明を発明することが期待・予期されていたといえるので、本件発明は、「職務に関する発明」といえる。したがって、本件発明は職務発明にあたる。
そして、X1の職務発明規定は、35条3項の定めにあたるものであると考えられるところ、この規定に基づき、X1がZに対し、本件発明の特許を受ける権利をX1が承継することを通知した時点で、本件発明の特許を受ける権利は、ZからX1に移転している。
4 そうすると、本件発明の特許を受ける権利は、ZからX1とX2に二重に譲渡されている。そして、特許を受ける権利の第三者対抗要件は出願である。
X2は、上記のとおり、Zから本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受けており、X1は、Zから本件発明の特許を受ける権利を承継している。したがって、X1は、本件発明の特許を受ける権利の得喪を争う正当な利益を有しているといえるから、第三者にあたる。
X1は、本件発明について、特許出願をしている。X2が、本件発明について特許出願をしたのはX1の出願の後である。
したがって、本件発明の特許を受ける権利の得喪については、X1がX2に優先し、X1が確定的に本件発明の特許を受ける権利を取得する。
X1の反論が認められる。
5 よって、X2の請求は認められない。
設問2
1 X1はYに対し、本件特許権に基づき、Y製品の製造販売の停止及び廃棄の請求、損害賠償の請求をする(68条本文、70条1項、2条3項1号、100条1項、同条2項、民法709条)。
2 Yはこれに対し、本件発明は選択発明にあたり、選択発明には進歩性が認められないと反論する。
(1)選択発明とは、特定の範囲の素材が特許請求の範囲に記載されているときに、そこから素材を選択することにより構成される発明をいう。そして、特許要件として進歩性が要求されたのは、容易に推考することができる発明については保護を与えないという趣旨によるものである。そうすると、選択発明であっても、顕著な特有の効果を奏するときには、進歩性が認められるべきである。具体的には、先行の公知文献に記載された発明が奏する効果とは異質の効果、又は、同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合には、進歩性が認められると解する。
(2)本件発明の特許請求の範囲には、「A、B、C及びDの中から選ばれる少なくとも1種のアクリル素材」という記載があるので、特定の範囲の素材が特許請求の範囲に記載されているときに、そこから素材を選択することにより構成される発明ということができ、選択発明にあたる。そして、本件発明は従来の発明と同質の効果を奏するものであるが、従来技術にはない画期的な発明であるから、先行の公知文献に記載された発明が奏する効果と同質の効果であるが際立って優れた効果を奏するといえる。
(3)したがって、本件発明の進歩性が認められる。
3 次に、Yは、Y製品は、本件特許権の技術的範囲(70条1項)に属しないと反論する。
(1)特許権の及ぶ範囲は特許請求の範囲の記載により決せられる(70条1項)から、当該発明の技術的範囲も特許請求の範囲によって決まるものと考える。そして、軽微な差異がある場合に常に同一性が否定されてしまうと、特許権者の保護として十分ではないから、技術的範囲に属するといえるか否かの判断は実質的に行うべきである。
(2)Y製品は、本件特許権の特許請求の範囲に記載された構成である「A、B、C及びD」からA及びCを選択したものであるから、本件特許権の範囲内の構成である。また、たしかに、Y製品の分子量は599であり、本件特許権の600とは異なるが、このような僅かな差異は、軽微な差異といえ、実質的には同一であるといえる。
(3)よって、Y製品は本件特許権の技術的範囲に属する。
4 以上より、X1の請求は認められる。
著作権法
設問1
1 XはY1に対して、それぞれ、①の行為は、翻案権(著作権法27条)及び上映権(22条の2)を侵害するとして、②の行為は、複製権(21条)及び譲渡権(26条の2第1項)を侵害するとして、①と②の行為の差止めを請求する(112条1項)。
2 小説Pは、主人公の高校教師Aが孤独な人生の度を続けることを内容とする短編小説であり、Xが創作的に思想及び感情を表現した表現物であるから、「言語の著作物」(2条1項1号、10条1項1号)である。Pの著作権者はその著作者であるXである。
3 翻案権侵害について
(1)Y1は、Pから抜粋した数行を英訳している。この行為は、元高校の英語教師であったY1が、その英語に関する経験や知識を活用して、自らの英語の理解に則して、Pの一部を翻訳するものであるから、既存の著作物に依拠しつつ、追加・修正などを加えて、新たな表現を加え、元の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる新たな著作物を創作する行為ということができ、「翻案」にあたる。
したがって、Xのこの主張は認められそうである。
(2)Y1は、当該英訳文からはPを感得することができないと反論する。
たしかに、翻訳前と後では言語が異なっている。しかし、英語と日本語の両方を習得した者にとっては、英文に触れたときに、これがPの翻訳であることを直接に感得することができる。
したがって、Y1の反論は認められない。
(3)よって、翻案権侵害に関するXの主張が認められる。
4 上映権侵害について
(1)「上映」(2条1項16号)とは、著作物を映写幕などに映写する行為をいう。Y1は、上記で制作したPの翻案とPの原文をスクリーンに投影しているので、著作物であるPの一部を映写幕に映写したといえるから、「上映」した。
したがって、Xのこの主張も認められそうである。
(2)これに対し、Y1は、当該上映は営利を目的としないPの利用にあたるので、当該上映について、Xの著作権は及ばないと反論する(38条1項)。
38条1項が著作権の権利行使の制限を認めた趣旨は、非営利の利用であれば、著作権者の経済的利益を大きく害することはないと考えられたことによる。そこで、「営利を目的としない」上映といえるためには、当該上映が直接又は間接に営利に結びつくものではなく、素材の作成者に対価が支払われず、名称のいかんを問わず観客から上映の対価を得ることがないものをいうと解する。
たしかに、Y1は、生徒から当該上映の対価を得ていない。また、XにもPの使用料が支払われるわけでもない。しかし、Y1は生徒から、公民館の使用料という名目で毎回一人200円を徴収している。これは、外国人の生徒が、日本語の学習をするために使用した場所の対価であることから、Y1が提供するレッスンの対価という性質を有するものである。したがって、名称のいかんを問わず観客から上映の対価を得ることがないとはいえない。
よって、Y1の反論は認められない。
(3)上映権侵害についても、Xの主張が認められる。
5 複製権侵害について
(1)Y1は、Pからそのまま抜き出した数段落をコピーしていると考えられるので、既存の著作物に依拠し、何らの変更も加え得ないで、当該著作物の表現上の特徴を直接感得できるものを製作したといえるから、Pの「複製」をした。
したがって、Xのこの主張も認められそうである。
(2)これに対し、Y1は、当該複製は、試験問題としての複製であると反論する(36条1項)。
36条1項の権利制限が認められるためには、試験の内容を秘密にする必要があり、事前に著作権者に承諾を得ることが困難であることを要すると考える。
クイズは、あくまでも寺子屋のような個人の学習塾で利用されるものであるから、学校の入試のように厳格にその内容が秘密にされる必要はないものであるので、事前にXに承諾を得ることが困難であるとはいえない。
よって、Y1のこの反論も認められない。
(3)以上より、Xの複製権侵害の主張も認められる。
6 譲渡権侵害について
(1)Y1はPの複製物を寺子屋の生徒全員に配布するなどしているので、「譲渡」にあたる。
(2)これに対し、Y1は、当該譲渡は、教育機関における譲渡であると反論する(35条1項、同条3項)。
たしかに、Y1の複製は営利を目的とするものではない。しかし、SUNDAY寺子屋では、毎週1回、毎回5~10人の外国人に対して、日本語の授業を行っており、これが繰り返すと、多くの外国人生徒にPの内容の一部が知られることとなる。このような意味においては、著作権者であるXに与える経済的な不利益は大きいといえるから、「著作権者の利益を不当に害する」ことになる。
よって、Y1のこの反論も認められない。
(3)以上より、譲渡権侵害についても、Xの主張が認められる。
7 よって、Xの主張は認められる。
設問2
1 XはY2に対し、③の行為は、複製権(21条)及び譲渡権(26条の2第1項)を侵害し、④の行為は、翻案権(27条)及び複製権を侵害するとして、③と④の行為の差止めを請求する(112条1項)。
2 行為③について
(1)Y2はXの著作権はラストシーンには及ばないと反論する。
(2)判例は28条により、原著作権者の著作権は二次的著作物全体に及ぶとするが、自らが創作した表現物に著作権を付与するというのが著作権法の趣旨だから、原著作権者の著作権は二次的著作物において新たに追加された表現には及ばないと解する。
(3)ラストシーンは、BがPに依拠しつつ変更を加えたものなので、二次的著作物にあたる。そして、Bが変更したのは、ラストシーンにおいて、Pには登場しない女性がAを見つめるシーンであり、このシーンの複製がY2のTシャツに複製されている。したがって、Xの著作権はラストシーンには及ばないと解するべきである
(4)よって、Y2の反論は認められる。Xの主張は認められない
4 行為④について
(1)Y2はAの外見や名前は著作権では保護されないと反論する
(2)著作権法は表現物を保護する趣旨なので、ありふれた表現や極端に短い表現は、著作物として保護されないと考える。
(3)「長髪に丸眼鏡をかけた長身男性で袴を履いている」というAの外見は、小説の登場人物としては特に特徴的なものとはいえないから、ありふれた表現といえる。また、「A」という人物の名前は極端に短いものと考えられる。
したがって、Aの外見や名前は著作権では保護されない。
(4)よって、Y2の反論は認められる。Xの主張は認められない
5 以上より、Xの請求は認められない。