小問1
1 事例において示された訴因は十分に特定(刑事訴訟法256条3項後段)されているといえるか。
(1) 訴因とは、起訴状に記載された具体的な犯罪事実のことをいい、その特定の目的は裁判所に対する審判範囲確定機能と被告人の防御の範囲を明確にすることにある。そこで、訴因の特定がされたといえるためには、起訴状に記載された特定の犯罪事実が特定の犯罪の構成要件に該当することが必要である。そして、それに加えて、他の犯罪事実と区別するために、他の犯罪事実と識別可能な程度に特定されている必要があると考える。
ア 本件の被疑事実は強盗致傷罪(刑法240条)である。
起訴状には、「被告人は、金品を強取する目的で」、「Vに対し、はさみを振りかざし」、「手首を粘着テープで緊縛するなどの暴行を加えて」と記載されており、75歳のVにとっては、そのような緊縛を受けることは犯行抑圧に足る暴行といえ、「暴行」があったということができる。そして、被告人はそのようなVの犯行抑圧状態を利用してVから他人の財物である「現金32万3000円を奪」ったことにより、「強取」している。また、Aには故意(刑法38条1項本文)も認められると考える。よって、Aは「強盗」にあたる。
くわえて、Aの上記暴行により、Vは「加療約10日を要する」「傷害」を負っているので、「負傷させた」ということができる。また、Aには故意も認められると考えられる。
よって、起訴状記載のAの犯罪事実は強盗致傷罪の構成要件に該当する。
イ そして、起訴状には、「B及び氏名不詳者と共謀の上」と記載があり、「共謀」の場所や日時の特定がない。もっとも、刑法60条は、「共同して実行した」ことしか要件としていないので、日時や場所を特定することがなくても、「共謀」の事実があれば、共謀は成立する。よって、上記の罪についてAの共謀共同正犯の構成要件に該当する行為は起訴状に記載があるといえる。
ウ そして、起訴状では犯行日時を「令和6年5月2日午後3時頃から午後5時7分頃までの間」、犯行場所を「東京都立川市2丁目1番地V方」と特定しており、他の犯罪事実と識別可能な程度に特定されているといえる。
(2) よって、起訴状記載の訴因は特定されているといえ、記載は適切である。
小問2
1 保釈の可否
刑事訴訟法88条は、「勾留されている被告人」について「保釈の請求」ができるとして、被告人についてのみ保釈を認めている。被疑者の勾留についてはこれに相当する規定は存在しない。よって、被告人の勾留の場合のみに保釈が認められる場合があるという相違点がある。
2 起訴後の取調べの原則禁止
勾留されている被告人については、当事者主義により、原則として取調べをすることが禁止される。もっとも、取り調べが必要な場合で、被告人の利益に反しない場合で、弁護士などが同席する場合には、例外的に勾留されている被告人にも取調べが可能である。被疑者が勾留されているときには、取り調べを禁止する規定は存在しない。よって、取り調べの可否の点で相違点がある。
3 接見指定の可否
勾留されている被告人については、接見指定をすることはできない。他方、勾留されている被疑者については、接見指定ができる場合がある。よって、接見指定の可否の点で相違点がある。
以上
読み返して気づきましたが、「氏名不詳者」になっている点も特定との関係で検討が必要でした。
捜査段階では完璧な情報を用意することは難しいので、当時の状況に鑑み、可能なかぎり特定したのであれば、「特定」として十分であるとかだったと思います。
それで、本件では、データが消去されていた点や捜査が尽くされたという点から可能な限り特定されていると論証するのかと思います。
これは刑事系は沈んだかもしれないですね。
憲法で余った20分をここに回したかったです。