1 Xが、スーパーマーケットAに立ち入った行為は、Aの管理権者であるAの支配人の意思に反する「侵入」といえるので、建造物等侵入罪(刑法130条)が成立する。
2 Xがエーゲ海産塩のバックを自己のジャケットのポケットに入れた行為に、窃盗罪(235条)が成立しないか。
塩のパックは1200円の価格でAで売られているものでAの所有物と考えられるから、「他人の財物」といえる。
「窃取」とは、所有者の意思に反して、財物の占有を自己もしくは第三者に移転することをいう。塩のパックを代金を支払わずに自己の支配領域であるジャケットのポケットに入れる行為は、合理的に推認されるAの支配人の意思に反して、塩のパックの占有を自己に移転させる行為といえ、「窃取」したといえる。
そして、Xに権利者排除意思と利用処分意思も認められるので、不法領得の意思も認められる。
また、Xは上記の構成要件に該当する行為の認識・認容があるといえ、故意(38条1項本文)も認められる。
よって、Xの上記行為に窃盗罪が成立する。
3 XがBからポケットの中身を見せるように言われて、ナイフをBに突きつけて脅した行為に事後強盗罪(238条)が成立しないか。
(1) 上記のとおり、Xは塩のパックを窃盗しており、「窃盗」といえる。
また、Xは塩のパックをジャケットのポケットに入れることにより、完全に塩のパックの占有を取得しているのだから、「財物を得」たといえる。
そして、BはXの挙動に不審を感じ、商品をポケットに入れたことを示しつつ、ポケットの中身を見せてほしいとXに申し向けている。これに対しXは万引きが見つかったと考え、塩のパックの返還を免れるために上記の行為をしているので、「取り返されることを防」ぐ目的があったといえる。
さらに、「脅迫」とは財物の確保に向けられた反抗抑圧に足る害悪の告知をいうところ、63歳の女性であるBに対して25歳と若い男性であるXが刃渡り6センチものナイフを突きつけて、財物の確保のために、「動くな」という害悪の告知を申し向けることは、通常のBのような女性であれば犯行抑圧状態になるといえ、「脅迫」があったといえる。
(2) また、Xには故意も認められる。
よって、Xの上記行為に事後強盗罪が成立する。
4 XがCから体当たりされ、ナイフを構えてCに向かって突進した行為に事後強盗罪が成立しないか。
(1) 上記のとおり、Xは窃盗である。なお、Xは、最終的には、Cから塩のパックを取り戻されているが、Xが塩のパックの占有を確保した時点で窃盗は既遂となるので、この要件の成否には影響しない。
また、Xは上記のとおり、「財物を得」たといえる。
そして、XはCに追跡されており、体当たりをされて、一度転倒しているところ、さらに逃走を図っているので、Cから捕まえられることを防ごうとしていたと考えられ、「逮捕を免れ」る目的があったといえる。
(2) もっとも、Xは上記のとおり、ナイフを構えてCに突進をしているところ、CはこれをかわしXを取り押さえているため、自由にXに反抗できたといえ、犯行抑圧に至っていない。そこで、XのCに対する「暴行」が認められないのではないか問題となる。
ア 事後強盗も強盗として論じられるため、「暴行」の程度としては236条1項の強盗罪と同じ程度のものが要求される。そして、強盗罪は被害者の反抗抑圧状態を利用して財物を奪取することに本質があることを考えると、事後強盗罪の「暴行」とは、財物の確保に向けられた、相手方の犯行を抑圧するに足りる暴行をいうと考える。そして、構成要件としては事後強盗の成立には「暴行」が認められれば足りるので、通常人であれば犯行抑圧状態となる暴行が加えられたことをもって「暴行」の要件を認めてよい。
イ Xは刃渡り6センチの殺傷能力のあるナイフを構えてCに突進している。これは通常人であれば死を覚悟するような有形力の行使であり、犯行抑圧に足る暴行である。
ウ よって、本件では「暴行」が認められる。
(3) また、Xには故意も認められる。
以上より、Xの上記行為には事後強盗罪が成立する。
3 罪数
二つの事後強盗罪は建造物侵入がかすがいになり、包括一罪となる。
以上
第1問に引き続き、こんなに論点は少ない訳はないと思っています。
Bがルールを知らなかったという事情は何を意味するのかよく分かりませんでした。