『「結婚のない母系社会」中国秘境のモソ人と暮らす』
サブタイトルに興味がひかれました。
中国は男尊女卑のイメージが強いから、秘境とはいえ、ありえるの?
なら、
結婚のかたち、
どんな歴史を辿ってきたのか、
現在の家族のありかた、
中国当局からどう思われているのか、
気になりました。
場所は、中国西部の雲南省と四川省の境にあります。
世界で最後の母系社会を営むといわれている部族のコミュニティ。
今から2000から3000年前、生活に適した花崗岩の山の山陰に広がる湖の土地に住み着くようになりました。
その湖畔は気候ゆるやかで、水は澄んでいて、野生の動植物が豊かに息づいています。
生命を授けるその水に、もっとも偉大なる女性の名前を「母なる湖」、
また山を女性と考え、美しい女神にして、人びとの擁護者の化身として捉えていたそうです。
社会を成立させる基本要素として女性を仰ぐ精神で、母方の血をひく家族を住まわせて、母系の糸がとぎれないように心を砕いてきました。
『人類はいずれも母系社会に端を発したと主張する学派の説を借用するなら、モソ人の歴史は人類の歴史が始まった何万年もの昔にまでさかのぼると言ってみたくなる。』
同感です。
考古学では、古代の女神崇拝が世界中でたくさんあります。
次に結婚のかたちですが、妻問婚(走婚)です。
平安時代が日本ではそうでしたね。
モソ結婚制度はないため、いうなれば、みんながシングルマザー。
自由恋愛。
ポリアモリー。
子供は母親家族の一員で、父が誰かは誰も問わない。
かといって男が不自由にいきているのか、というわけは全くなくて。
男の人は、永遠の独身。
求められているのは肉体労働だとわきまえていて、生涯は思いやりにあふれていて、充実している。
男たちの最高の楽しみにして重要な役割は、求愛活動です。
言うなれば、孔雀のようにかっこよくて、ナルシスト、もてる為の努力がストレートに現れているそうです。
本当にハンサムで、整った顔立ち、大柄でシックスパック、手が大きい、という身体的特徴に合わさって、いかに魅力的に見せるかの物腰、ポージングの研究に余念がないそうです
モソ人の人生は、結婚がゴールでも、核家族の構成でもないので、老後も寂しくなんてなさそう。
当然ながら、恋人(アシアとよぶ)は、その対のひとのものではなく、誰も専有物等とも考えません。
恋人が他の人と浮気という概念もないし、連絡がとれなくても関係ない、カップルで出歩くこともない。
また、子供の養育の権利は父親にはなく、義務や責任も全く負わされていません。
父親らしいことをしたければ、子供に自分の存在を伝え、節目での贈り物をすることができるし、
父親の役割を全面的に引き受けることもできます。
子供の存在を鼻から無視することもできます。
多種多様の選択肢があり、それでとやかく言われはしないのです。
ここまで読んで、これこそ、人間が自然で、あるべき姿なんじゃないかな、と思いました。
と同時に、これを継続することの困難さ、時代の変化の厳しさを感じました。
中国、いや世界から押し寄せる、経済市場主義、現金経済、時代の変化によって、先祖代々の母系家族は減ってしまいました。
中国の当局は、風光明媚な景観とともに、「母系社会」「走婚」を文化と居住地一帯を観光資源として売り込みました。
経済で支配する、西洋の目や流儀で押し付けてくる、そんな真綿で首を締められている、辺境の民族。
ミャンマーや台湾よりは平和的かもしれないけど、読了後は、胸のモヤモヤ感、違和感が拭えません。
どう感じるか、読んで味わってみてください。