河岸に着くと、「防洪記念塔」の前で、観光客が写真を撮っていた。1957年の大洪水を治水した記念の塔で、街のシンボルだという。その向こうには、氷に覆われた松花江が一面に広がっている。そして、人々が凧揚げをしたり、滑り台で滑ったりしている。長閑な北国の新年だ。川幅は100 メートル以上あり、対岸まで片道2元の犬ゾリが走っている。が、彼らは歩いて渡ることにした。歩きながら、「この歌、知っていますか」と、彼女は中国語で歌い出した。
それは、「松花江上(ソンファジャンシャン)」という、満洲事変が始まった9月18日を歌った「抗日歌」で、何度か聴いたことがある。彼女の歌に合わせて、彼も口ずさんだ。
向こう岸は「太陽島」と言い、日本人男性と中国人女性の〝お見合いツアー〟で有名な場所だ。関東の北の街で、妻に逃げられた、気の毒な男性達からよく聞かされた。20分程で対岸に着き、河畔を歩くと、沿道の氷の壁が陽光に映えている。近くにロープウェイ乗り場があり、彼らは40元払い、氷結した大河を空から眺めながら、反対側に戻った。
(『国よ何処へ‐平成の日本語学校物語‐』第8章‐6)
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