公太郎は繁華街まで歩き、タクシーを拾った。地図には「満洲国皇宮跡」ではなく、「偽皇宮」とある。5分ほどで着き、入場料を払って中に入った。

 〝ラストエンペラー〟こと最後の皇帝・愛新覚羅溥儀は、辛亥革命で退位し、日本の天津租界で匿われていた。関東軍は、その溥儀を«満洲帝国皇帝≫に担ぎ上げた。薩長軍が天皇の「御旗」を掲げ、明治維新で「大日本本帝国」を建国したように。

 

           

   溥儀は、父祖の地、満洲で清朝再興を夢見た。しかし、敗戦後の「東京裁判」では、ソ連側証人になり、即位は自身の意思でなかったと偽証し、日本側を失望させた。

   宮殿の敷地面積は13万7,000平米あり、執政室、会議室、庭園、乗馬場、プール、防空地下壕などがある。だが、ここは仮の住まいで、別の新宮廷が建設中だったらしい。その完成を待たずに「大日本帝国」は敗れ、「満洲帝国」も崩壊した。

 

                              (『国よ何処へ‐平成の日本語学校物語‐』第9章‐8)

 

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