「偶然と想像」、「ドライブ・マイ・カー」の濱口竜介監督の作品だ。

独特のテンポで展開する濱口ワールド全開の作品である。

 

安村巧は娘と二人で、長野県の水挽町で便利屋として働いている。

水挽町は山奥の町で、観光資源と呼べるものはほとんどなく、別荘と地元住民の家屋が点在する静かな町だ。

その水挽町に、グランピング施設建設の話が持ち上がった。

住民は突然開かれた説明会に参加するものの、東京から来た運営会社の担当高橋と黛はシナリオ通りの説明をするだけで、住民の怒りを買ってしまう。

特に、水質については鋭い質問が飛んだ。

巧は、今の建築計画の浄化槽の場所では、地下水に影響が大きいと指摘する。

移住してうどん屋を始めた夫婦も、水質については懸念をしていると発言した。

その他にも、夜間に管理人が駐在しないと火の不始末が起きるのでは、などの質問が飛び交い、高橋はサンドバック状態になってしまう。

説明会の後、地区長が担当者の高橋と黛に巧のアドバイスを聞くように進言し、二人は巧の連絡先を聞いて東京に戻った。

 

グランピングを計画しているのは、東京の芸能事務所だった。

コロナ禍で経営が行き詰まり、補助金目当てでグランピングを計画したのだ。

事務所の社長はコンサルタントの言いなりだが、コンサルタントは通り一遍の回答しかせず、高橋と黛の持ち帰った住民の意見には、まったく耳を貸そうとしない。

社長は事務所を維持するためには計画通りに建設すると言い張り、管理人問題についてはコンサルタントの提案通り、巧に依頼しろと言い出した。

高橋と黛は仕方なく巧に連絡を取り、水挽町に向かう。

 

だがその段階で、高橋も黛も社長から心が離れ、水挽町の住民に寄り添おうとしていた。

巧や住民から厳しい言葉を浴びせられるものの、二人はどんどん水挽町を好きになって行く。

 

冒頭30分くらいは、巧の普段の生活が描かれている。

巧役の大美賀均という役者のバックグラウンドはわからないが、演技なのかどうかもわからない淡々とした態度が、巧の人柄をよく表現していた。

その後の紛糾する説明会から東京でのリモート会議、そして高橋と黛が水挽町に戻る際の車内の会話、この組み立てが素晴らしい。

脇役と思われた高橋と黛が、実はこの作品の主役ではないかと思ってしまった。

 

ただ、ラストが意味不明である。

少々ネタバレになってしまうが、有毒ガスが発生したために、巧が自らの命を顧みずにあのような行動を取ったようにも思える。

しかし、その後については見ている者がどう想像していいいか、何の手掛かりもなく作品は終了してしまう。

それも濱口竜介っぽいと言われればそうなのかもしれないが、さすがにもう少しわかりやすい作りにして欲しかったとも思った。

 

 

91.悪は存在しない



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