1990年代、F1界ではホンダエンジンが席巻し、日本でもF1ブームが起きていた。

その頃私も夢中でF1中継を見ていたが、応援していたのはフェラーリだった。

ジョン・バーナードが設計した640から始まり、その後の64シリーズからF92までをスティーブ・ニコルズが担当、ハーベイ・ポスルスウェイトを挟んで再びジョン・バーナードがF310Bまでを担当する。

このあたりのフェラーリが、F1マシンの中でも一番美しかったと思う。

特に64シリーズのサイドポンツーンの曲線は、極限美と言っていいだろう。

ちなみに、当時はフェラーリファンをティフォシと呼んでいたが、ティフォシはチフスが語源の蔑称で、モンツァのフェラーリファンは自分たちをフェラリスタと呼んでいることを、後から知った。

 

そんな思いで観たこの作品だが、期待した内容とはかなり異なっていた。

 

1957年、フェラーリの総帥エンツォは、スクーデリア・フェラーリ創設からわずか10年で、F1をはじめとしたモータースポーツで確たる地位を築いていた。

しかしエンツォの心は満たされていなかった。

前年、愛息のディーノが病でこの世を去っていたからだ。

心のよりどころは愛人のリナと、彼女が生んでくれたもう一人の息子のピエロだけだった。

リナの元から朝帰りすると、共同経営者で妻のラウラからは銃を向けられ、発砲される。

 

私生活がそんな状態のうえに、会社の経営状態も思わしくなかった。

レースに向けてのテスト走行もライバルのマセラティにタイムを上回られ、ドライバーも事故死してしまう。

起死回生にエンツォは、イタリアを縦断する公道レース「ミッレミリア」への参戦を考える。

 

ディーノを失ったエンツォが、レースマシン開発に没頭する作品かと思ったが、そうではなかった。

彼の内面に迫る作品で、ディーノの亡き後の妻のラウラとの夫婦のギクシャクした人間関係が描かれている。

実際、当時のエンツォにとっては会社経営、そして共同経営者でもあるラウラとの関係は、非常に重要な問題だったのだろう。

レースマシン開発を期待した私が悪かったのかもしれない。

とは言え、フェラーリの経営が傾いたのは、エンツォが経営を顧みずにレースマシンの開発に投資したからだと聞く。

F1がスタートしてから今日まで、唯一参戦しているコンストラクターズチームはフェラーリだけだ。

 

「ラッシュ/プライドと友情」ではハントとラウダのアツい戦い、そして「フォードvsフェラーリ」ではアツい開発競争が描かれていただけに、この作品でももう少しマシン開発にフォーカスしてもらいたかった。

 

エンツォを語る作品に興味を持つ層は、人間性よりもエンジニアとしてのエンツォに興味があると思う。

ヒューマンドラマとしてはまずまずいい作品だとは思うが、あまり話題になっていないのは、そのあたりにも原因があるのではないかと思った。

 

 

90.フェラーリ



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