公開劇場も少ないためそれほど期待しないで観に行ったが、想像よりもかなりいい出来の作品だった。

 

尼崎に住む小学4年生の近松優子は、両親と一緒に近所の尼崎閘門、通称「尼ロック」を観察に来ていた。

それを作文にしてコンクールに応募すると優秀賞を受賞、母の愛子(中村ゆり)は4年生で優秀賞は立派だと褒めるが、本人は最優秀賞ではないことを不満に感じていた。

父の竜太郎(松尾諭)は鉄工所を経営しているが、しっかり働く従業員を褒めるだけで、自分自身はあまり手を動かさない。

家でもゴロゴロしながらタイガースの応援するばかりだが、優子から働かないのかと尋ねられると、「オレは皆を護る尼ロックだ」と言って、やはり働こうとしなかった。

 

10数年後、優子は京大を出てとある企業に就職し、表彰されるほどの功績を上げていた。

しかし真面目過ぎて周囲と馴染めなかったため、リストラされてしまう。

会社を辞めて実家に戻ると、竜太郎(笑福亭鶴瓶)は「祝リストラ」と言う布を掲げて笑って優子を迎え入れた。

優子は「何が『祝』だ」と怒るが、竜太郎は「人生何があっても楽しまな」と笑って答えた。

 

それから数年後、優子は引きこもってニート生活を送っていた。

京大時代はボート部でも優秀な成績をあげていた優子は、リストラされたことから立ち直れなかったのだ。

そんなある日、竜太郎が再婚すると言いだす。

母が死んでから19年経っているが、いい年をした父の再婚に優子はあまりいい反応を示さない。

しかも相手は20歳の早希(中条あやみ)だった。

 

早希は近松家に引っ越してきて、3人での生活が始まる。

ほっといて欲しい優子は早希と接触しないようにするが、早希は食事を一緒に取るなど、グイグイと優子に食い込んでくる。

当然、あまりにも急激に距離感を縮めてくる早希に、優子は拒否反応を示す。

だがそんな時、竜太郎がランニング中に倒れて急逝してしまう。

 

映画を観る前は、優子、竜太郎、早希の日常のいさかいをコントのように見せる、コメディ的な3人劇かと思った。

しかし実際には、人生に悩む優子が早希にインスパイアされて考え方を変える、と言うヒューマンドラマだった。

すでに書いているが、前半で竜太郎がストーリーからいなくなってしまう。

ここからがこの作品の本番とも言え、二人の生活になってからの優子と早希の距離感が素晴らしい。

 

優子は頭脳明晰で常に最適解で行動しようとするが、その事で周囲との軋轢が生まれてしまう。

さらに優子はリストラでプライドをへし折られており、自分に自信がないため、頭で理解していても行動に起こす勇気がわいてこない。

一方早希は、プライドや対面など関係なしに、正論を展開する。

子ども時代に両親の仲が悪かった事で、いつも一人で過ごしていた早希は、暖かい家族を夢見ていた。

それゆえ、誰にでも暖かく接する竜太郎に、年の差など関係なく好意を抱いたのだ。

そんな早希は、「好きな人と一緒にいる事が一番幸せ」という正論を、優子に突きつける。

優子は早希の言っていることが正論だと理解しながらも、それをなかなか受け入れる事ができない。

作品中何度も、優秀な優子が早希に正論でやり込められてキレるのだが、後から後悔していると言う図式がうまくハマっている。

 

この作品には、悪人は存在しない。

こういう場合、たいていご都合主義の連続でストーリー全体が甘くなり、ダレてしまうケースが多い。

しかしこの作品は、ある意味主役の優子が悪役なので、全編を通して微妙な緊張感が漂っていた。

優子が見合いをする南雲が早希の紹介であるため、南雲の家族が優子との交際に反対することもなく、そもそもなぜ南雲が優子に惹かれたのかなど、前半に貼られた布石がうまく機能している。

細かい部分もうまく整合性が取れるように、プロットが設定されている。

ラストはちょっとハッピーエンドすぎるかな、と言う気もしたが、これはこれでアリかな、とも思った。

 

練り込まれた脚本と実力者ぞろいの役者陣がうまく機能した佳作、と言っていいだろう。

 

 

65.あまろっく



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