TOHOシネマズの作品解説に、米兵と現地通訳がアフガニスタンで、タリバンの追跡をかいくぐって脱出するストーリー、的な解説があったので、よくある戦争モノかと思ってスルーしようかと思ったが、監督がガイ・リッチーなのであまり期待しないで観に行く事にした。

だが予想を大きく上回る感動作品だった。

 

アフガニスタンでタリバンの弾薬庫の捜索をしていたジョン・キンリー曹長(ジェイク・ジレンホール)は、ミッションの時に自爆テロに遭い部下一人と通訳を失った。

ジョンは範囲が広く捜索は困難だと上長に訴えるが、任務はそのまま続行され部隊には新たに部下と通訳が派遣される。

通訳はアーメッド(ダール・サリム)と言い、他の部隊から「有能だが扱いづらい」と評価された人物だった。

 

たしかにアーメッドは理屈っぽい人間で、通訳する時も自分の判断や感情を入れたりする。

そのため、ジョンも最初はアーメッドをあまり信頼していなかったが、ある日アーメッドが仲間の裏切りを見抜いて部隊が窮地から救われたことから、アーメッドを信頼するようになった。

そしてジョンの部隊は弾薬庫の情報を得て、基地から120km先離れた採掘地跡を捜索に行く。

その採掘地後はズバリ弾薬庫で、タリバンと激しい戦闘になってしまう。

ジョンたちは弾薬庫を爆破するが、ジョンとアーメッド以外のメンバーは全滅、救援の航空部隊の到着も間に合わなかった。

二人は奪った車で逃走するが、タリバンの司令官は裏切り者のアーメッドとジョンを生け捕りにするように命令した。

徒歩での基地帰還を試みるが、タリバンの追手は次から次へと現れ、ついにジョンは銃撃を受け瀕死の重傷を負ってしまう。

だが、出産間近の妻と一緒にアメリカのビザを取る目的があったアーメッドは、ジョンを見捨てずにその場でソリを作ってジョンを乗せ、歩いて120kmの距離を歩き始めた。

 

何日も掛け、困難の末にジョンとアーメッドは米兵に救助される。

数週間後、ジョンは目覚めてアメリカに帰国し、勲章を授与される。

しかしアーメッドはビザが降りず、しかもタリバンからは賞金を懸けられてしまい、妻、そして生まれたばかりの子どもと3人で身を隠していると言う。

ジョンはアーメッドを救出するためにアメリカのビザ申請を行おうとするが、本人が身を隠しているため書類が提出されないため申請が受理されない。

何カ月もの間、まったく埒があかない状態が続き、しかもビザ申請が受理されたとしても9カ月はかかると言われ、ジョンは絶望する。

 

ジョンは知人のアドバイスを受け、警備会社に15万ドルを支払い、偽名を使って自らアフガニスタンにアーメッドを救いに行くことを決意する。

妻のキャロラインは、これまでもジョンが戦地に行くときには不安でいっぱいだったと告げるが、今回はジョンの命を恩人を救うためと言う事で理解をしてくれ、自宅を担保にして銀行に借金をしてくれた。

ジョンはかつての上司に即時のビザ発給だけを懇願して約束を取り付け、単身アフガニスタンに戻る。

 

前半はアーメッドがジョンを救うために命を賭け、後半は逆にジョンがアーメッドのために命を賭ける。

この友情ストーリーが、シンプルだが深く感動させてくれた。

 

アーメッドがジョンを抱えて帰還する最中、そしてタリバンの捜索から隠れている時に、アフガニスタンの部族や住民が協力してくれて、彼らがタリバンを快く思っていない事が描かれている。

おそらく、これが真実なのだろう。

 

現在のイスラエルのパレスチナ侵攻も、イスラエル、ガザ地区の住民は、必ずしも自分たちの政府を信頼している訳ではない。

イスラエルの住民は、攻撃をすればするほどイスラム教徒の反発は激しくなると考え、ガザ地区の住民はハマスが完全勝利をすることなどあり得ないから、どちらもとにかく早く停戦して欲しいと願っている。

そもそも、イスラエルがオスロ合意を無視していることに端を発しているが、だからと言って2023年10月7日のテロが肯定される訳ではない。

それでも、10/7のテロで家族が犠牲になったイスラエル国民の中にも、いったん停戦をした方がいいと言い出している人もいるらしい。

 

話を映画に戻すが、タリバンに不満を抱えている部族、国民の助けで、アーメッドと家族はなんとか逃げ延びる事ができている。

しかしタリバンはメンツを掛けてアーメッドを捜し出そうとしている。

1日の猶予もない状態で、ジョンの焦りが頂点に達する。

この描き方が巧い。

全体のバランスも良く、さすがガイ・リッチー、と言うほかない。

 

現代の戦争のほとんどは、国民の意思とは関係なく為政者の思い込みと意地で継続されているという事がよくわかる作品だ。

イスラエルのパレスチナ侵攻、そしてロシアのウクライナ侵攻が続く今だからこそ、多くの人々に観てもらいたい映画である。

 

 

28.コヴェナント/約束の救出



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