北朝鮮から脱北する亡命者を描いたドキュメンタリー作品だ。

再現フィルムなどはいっさい使用せず、実際の映像を基本に、再現部分は簡素なアニメーションで構成されている。

 

コロナ前の2019年、韓国の牧師キム・ソンウンは、北朝鮮のブローカーと組んで脱北者の手助けをしていた。

ブローカーは脱北者を人間ではなく商品として見ており、若い女性であれば売春や中国の農村部に嫁として送り込む。

しかし商品価値がない脱北者の手助けはしない。

その場合、キム・ソンウンのような脱北者を助けるグループがブローカーに金銭を支払うのだ。

 

この映画で取り上げられたのは二組。

一組は50歳前後の夫婦と十歳に満たない娘二人、それと80代の妻の母の5人のグループだ。

当然ブローカーは商品価値を認めないため、キム・ソンウンが金銭を支払って手助けをする。

白頭山付近に潜伏する家族に鴨緑江を渡らせ、中国国内に入ったら買収した警察官に青島までパトカーで護送してもらう。

その後ベトナム-ラオス国境の密林を10時間以上掛けて歩き、最後はメコン川を小さな船で渡ってタイに入国する。

この間の行動を、制作クルーが撮影をしている。

キム・ソンウンはベトナムで家族と合流、一緒に密林を歩いてラオスに入国し、家族にメコン川を渡らせて自分は韓国に帰国する。

 

もう一組は、先に脱北した40代の母の息子の脱北の支援だ。

しかし息子は中国国内で警察に捕まり、送還されてしまう。

息子は10代で、母を北に連れ帰るつもりだったと言うが、それも認められず収容所に送られることになる。

夫である息子の父はもちろん脱北した妻に対して怒りを感じており、母は息子と一緒に暮らしていた自分の母、息子の祖母と連絡を取るが、祖母から息子が収容所送りになる事を知らされ、もう二度と連絡をしてこないように突き放される。

こうなると、キム・ソンウンももう手の打ちようがない。

 

北朝鮮の状況と、脱北者がどのように他国に逃れるかは、この映画以外でもドキュメンタリーなどで報道されているため、特に新鮮な部分はなかった。

脱北に成功しても残った家族が迫害を受ける事が脱北のブレーキになるはずなのだが、実際にはその抑止効果も薄れているらしい。

この映画でちょっと衝撃的だったのは、脱北家族の80代の母が、ラオスまで来てもまだ「将軍様は若いのに立派だ。国民が幸せになるように努力してくれている」と言っていた事だ。

完全に洗脳されていて、この洗脳は韓国で脱北支援を受けるまで解ける事はなかったらしい。

ちょうど昨日、中国内の北朝鮮労働者が暴動を起こしたと言うニュースが流れたが、理由は賃金の未払いで、体制に反対している訳ではないようだ。

北朝鮮では、アメリカは人殺し国家だと言う洗脳教育がまだ機能しているため、しばらくは内部から金正恩体制が崩れる事もないのだろうなと、映画を観て思った。

 

 

10.ビヨンド・ユートピア 脱北



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