原作は同人誌で、即売会で発売され話題になったらしい。

映画は監督が山下敦弘。

作品によって出来が大きくブレる監督だが、今回は脚本を野木亜紀子が担当していることもあってか、かなり面白い作品に仕上がっていた。

 

大阪の中学生岡聡実(齋藤潤)は合唱部の部長でボーイソプラノを担当していた。

しかし最後の大会地区予選で3位となり、全国大会の切符を逃す。

そんな聡実に声を掛けてきたのが、四代目祭林組の若頭補佐の成田狂児(綾野剛)だ。

 

祭林組では、毎年組長の誕生日にカラオケ大会が実施され、最下位の者は組長から刺青を彫られてしまう。

しかも組長の画力は素人レベルで、どうしても刺青は避けたい。

過去4年間、組長の刺青を受け入れた組員がいたが、その組員が今年はカラオケ教室に通ってしまったため、他の組員が最下位になる可能性が出てきてしまった。

その状況で狂児は偶然聡実たちの合唱を聞いたため、聡実に歌を教えてもらう事を思いついたのだった。

初めて会った時に強引にカラオケボックスに連れ込まれたが、聡実は狂児の依頼を拒否しようとする。

しかし狂児は聡実の学校を押さえており、放課後になると校門前で待ち構えているため、聡実は仕方なくカラオケに付き合うことにした。

 

その一方聡実は、声変わりでソプラノの音階が出ないことに悩んでいた。

大会で優勝できなかったことに、同じくソプラノを担当する後輩の和田が異常にこだわり、副顧問のももちゃん先生(芳根京子)に自分たちが優勝できなかった理由をしつこく問いかけると、ももちゃん先生は「技術は完ぺきだったけど愛が足りなかったかな」と答える。

しかし聡実は密かに、自分の声が出なかったことが原因ではないかと思っていた。

聡実の様子から薄々感づいていた合唱部のコーチの松原は、ももちゃん先生にそのことを告げる。

するとももちゃん先生は、最後の合唱コンクール用にソプラノのソロが入った曲を選曲する。

聡実にソロパートを頑張るように言い、同時に和田にバックアップとしてソロパートを練習してほしいとも言った。

その事で聡実はさらに悩み、合唱部をさぼって映画鑑賞部の部室に入り浸るようになる。

 

同時に聡実は夜は狂児の練習に付き合い、選曲などについてもアドバイスする。

すると狂児は、仲間にもアドバイスをして欲しいと言い出した。

狂児は祭林組の組員でいっぱいになったカラオケボックスに、聡実を連れ込むのだった。

 

年齢も立場も全く異なる、狂児と聡実のバディ感が絶妙に表現された作品だ。

狂児は若頭補佐だが、聡実にスゴんだりすることはない。

常に物腰柔らかに接しながら、Xの「紅」を歌う時だけは異常にテンションが上がる。

そして、「紅」を好んで歌うようになった理由や狂児と言う名前になった理由など、狂児のバックグラウンドを知るうちに、聡実は少しずつ狂児に心を許して行く。

このプロセスの描き方が巧い。

合唱部では自分の声が出ないことに対する不安に加えて、こじらせ系の後輩の和田がうるさく付きまとうため、聡実はなんとなくいずらさを感じ、狂児と一緒にいることを選択する自然な流れになっている。

この辺りは、主演の二人の演技力と言ってもいいかもしれない。

天然の副顧問のももちゃん先生に加え、和田をうまく取り扱う副部長の中川のキャラも、なかなかうまく機能していた。

 

鶴と亀の傘や、組長が彫ったキティちゃんの刺青、再生しかできないVHSのビデオデッキなど、細かい笑いの取り入れ方も非常に巧い。

正直、大スベリもあるかなと思って観に行ったが、予想を覆して最初から最後まで楽しく見ることができる、完成度の高い作品だった。

 

 

9.カラオケ行こ!



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